涼を納る-
体表から放出されゆく気配が微塵も感じられない全身の熱、すべてはこの外気のせい。仕方なくそのまま持ち運び続け、重い心とともに花井は深夜ようやく帰路に着いた。
一室を借りているマンションのエントランスホールは空調が程良く効いていて息をつく。そのまま佇んでいたくなる。それはほとんど本能と言ってもよかった。外気はそれだけの高温と高湿度で呼吸が苦しい。間違いなく生命の危機。ここで涼しさに包まれて無意識に気の抜けた声が出なかったのは幸運だった。間抜けな様子が監視カメラに記録されてしまう。
オートロックのパネルにシンプルな鍵束を見せつける。翳した角度が悪かったのか二拍後に開いた自動ドアの動きを、花井はその場に佇んだままぼんやり重たい瞼をもって眺めた。たどり着くべきはこのエントランスではない、もうあと少し先であることを運良く思い出す。
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