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    noa/ノア

    @eleanor_dmei

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    [南風&扶揺✈️] ある日の南扶ちゃんたち。
    扶揺に呼び出された南風が渡されたモノとは…?

    #天官賜福
    Heaven Official’s Blessing
    #南風
    southerlyWind
    #扶揺
    motions
    ##南扶
    ##パイロットAU

    『今週水曜までで会える日は?』
     画面に表示されたメッセージの通知。送り主の名前を見なくても誰からかわかる。南風は、小さく溜息をつきながらスマホを手に取り、『ない』と短く返す。厳密にいえばないわけでもないが、そう返すのは癪だった。今日はもう月曜日。いつもながら、こちらの予定などお構いなしだ。こっちだって忙しく飛び回るパイロットなのだ。
     すぐに返事が返ってくる。
    『木曜は?』
     なにやら随分急ぎらしい。手元のカップが空になっていることに気づき、新しくコーヒーを淹れてきてから、ゆっくりと返す。『朝八時。そのあとフライトだから』
     向こうでメッセージを打っているらしく、しばらく画面にドットが跳ねる。
    『九時。お前のフライト午後からだろ? すぐ済む。じゃあいつもの空港のカフェで』
     クソっ。南風は大きく舌打ちした。

    「扶揺、何なんだ急に」
     南風の声に玄真航空の制服姿の扶揺が振り向く。「遅いぞ。八時って言ったのお前だろ」
    「で、お前が一方的に九時にしたんだろ」
    「俺は、さっきヨーロッパから帰ったばっかりなんだぞ」そう言ってこれ見よがしに欠伸をする扶揺に南風は眉をひそめた。
    「待て、じゃあなんで水曜までで会える日を聞いた?」
    「どうせお前は、空いてないと答えるだろうなあと」扶揺が笑う。
    「帰っていいか? 俺は忙しいんだが」
     南風が腰をあげようとすると、扶揺は足元の鞄をごそごそと探りながら「いいのか? お前にお土産があるんだが?」と言った。
    「土産?」
     浮かせた腰を下ろすのを見て、扶揺は茶色い紙袋をすっと南風のほうにスライドさせた。扶揺の顔と紙袋を見比べたあと、南風は紙袋の中から箱を取り出した。片手で掴めるくらいの段ボールの箱は意外と重みがあった。
    「開けてみろよ。べつに爆発したりしないから」
     蓋を開けて梱包材を取り出すと、なにやら透明な球体が見えた。
    「なんだこれ?」掴んで取り出したものを見つめる南風に扶揺はふんと鼻を鳴らす。
    「スノードームも知らんのか」
     台座のついたガラスの球体を南風が手の中でひっくり返すと、中で白い粒たちがゆっくりと幻想的に舞う。
    「いや知ってるけど。っていうかそういう名前だと知らなかっただけだ」
     重みのあるそれを南風はテーブルの上に置いた。雪が舞うドームの中には、茶色の犬と、少し小さい黒い犬が、空を見上げるように座っている。
    「店で見た時に、風信機長とお前っぽいなって思って」顔を近づけて覗き込む南風に扶揺が言う。
    「なんかこの黒犬の間抜けな感じが」
    「お前……!」南風は思わず手が出そうになったのを堪えた。空港のカフェでパイロット二人が乱闘はマズい。
    「だってお前たちこの間、積もった雪ではしゃいでただろ、ほら――」扶揺が続けて言った空港名には覚えがある。久々の北の地の雪景色に、風信機長と少しばかり楽しんだのは確かだ。だがまさか玄真航空のコイツもあの時あの空港にいて、あろうことか見られていたとは。
    「お前だって雪見ると喜ぶだろ!」
    「ああ。でも飛行機の横で雪だるま作ったりはしない」
     顔を赤くしながら拳を握る南風に、まあまあと扶揺は手をあげる。
    「重いのにお前に持って帰ってきてやったんだぞ」
     気を落ち着かせるように南風は大きく息を吐く。確かに、菓子のような土産なら貰うこともないでもないが、こんな消えモノじゃないものを貰うのは珍しい。ドームの中で雪が舞う様子は綺麗でずっと見ていたくなる。悪くない。
     だが絶対ウラがある。南風は腕組みをすると言った。
    「で、今回の頼み事はなんだ?」
     何かの見返りとして頼みごとをするのは、もはや二人の日常だった。
     扶揺は、にっと笑うと言った。
    「パリ。シャルルドゴール空港のコツを教えろ」
    「初めてなのか?」
    「いや。だがあまり飛んだことがない。今度、慕情機長とのフライトでさ」
    「空港のチャートやら見ればいいじゃないか」南風が言うと、扶揺は呆れたように目を回した。
    「あのな、そういうのはもう見てる。降りたことがないとわからない事とかあるだろ?」言いながら扶揺は胸ポケットから手帳とペンを取り出した。
     南風もそれほど経験はなかったが、扶揺のペンを借り、記憶をたどりながら降りるときのコツ、迷いやすい箇所などを図をかいて教える。
    「なんか図が曲がってるな」覗き込んで言う扶揺をじろりと睨む。
    「うるさい。地図ひとつ描けないお前よりマシだ」
     ふんと扶揺が顔を逸らす。
    「ああ、あと滑走路周辺にウサギがいるから気をつけろ。まあ近づいてはこないが」
    「ウサギ?」「ああ、あそこは棲みついてる」
     へえ、と思わず驚いた顔をする扶揺に南風は少しばかり得意げな気分になった。
    「で、慕情機長にいいとこ見せたいのか?」南風がニマニマと笑うと扶揺も笑い返した。
    「ああ。来週前半のフライトなんだ」
    「へえ、来週……ってまさか……」
     扶揺はニヤリと笑うと、この時期にそこら中で聞こえてくるメロディを口ずさんだ。南風はガタっと今度こそ椅子から腰を浮かせた。
    「お前、クリスマスに慕情機長とパリ行きのフライトを……?!」
     扶揺の口が勝ち誇った笑みを浮かべる。
    「そういうこと」
     南風は心のなかで悔しさにのたうち回った。南風も、密かに風信機長とのクリスマスフライトを切望していたが、今年も叶わなかったのだ。
    「クソッ!」南風が悪態をつくと、扶揺は腕時計を見て立ち上がった。「おっと、忙しいんだったな。じゃあまた」
     小さく手を振ると、扶揺は颯爽と立ち去った。
    「結局それを自慢したかったのかよ……!」
     カップの残りを煽ってガンとテーブルに置くと、ドームの中の犬たちの足元で雪が慰めるように跳ねた。
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