ゲッベルス、袖口から登場。
ゲッベルス「ああ所詮僕は愚かな人間」
ゲッベルス「だが、ああ、その愚かさこそが、ああ、ああ、愛おしいのだ……」
ゲッベルスがヒトラーの袖口に頬擦りする。
ゲッベルス「僕という人間はあなたによって規定される一つの不確かな現象でしかない、ああ、アドルフ・ヒトラー!」
ゲッベルスは指を振ると、ヒトラーの周りで、ゆっくりと、不器用にスキップをはじめた。
ゲッベルス「アドルフ・ヒトラー……稀代の天才、あるいは悪魔、英雄、神、救世主」
ゲッベルス「馬鹿みたいに踊ってたっていい、彼の手の上で!彼は天才だからだ、そうだ。そうだ、彼は天才だ!僕はその第一の従属者」
ゲッベルスは観客席の方を振り向き、両手を高く上げる。
ゲッベルス「僕は違う!僕はお前らとは違う!僕は、僕は天才なんだ!」
劇場をしらけた静寂が支配する。ゲッベルスの顔には怯え、怒り、諦めの色が浮かぶ。
ゲッベルス「嫌、違う!僕はそんな____」
踵を返して逃げようとした足に、ヒトラーがぶつかって倒れる。
ゲッベルス「あああ総統閣下!ああ!ご無事ですか、あああ!あああああ!」
ヒトラーの頭は粉々に砕けてしまった。
ゲッベルス「あああ僕のせいだ、僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ!」
ゲッベルスはヒトラーの破片を手に取って呆然と立ち上がる。
ゲッベルス「僕の、僕の総統閣下……」
ゲッベルスはうずくまってえずく。何かに気づいたゲッベルスは、粉々になった欠片を自分の身に振りかける。
ゲッベルス「あ……総統……総統……」
ライトが明るく彼を照らす。
ゲッベルス「そうか、我ら風前の灯」
ライトがゲッベルスにスワスティカを投影する。
ゲッベルス「総統……僕が……いや、私が……」
ゲッベルスはヒトラーの胴体を抱え上げ、ポケットから銃を取り出した。
ゲッベルス「私こそがあなたの理解者、私こそがあなたのイデオロギーの、ナチズムの集大成だ!」
ゲッベルスは倒れた。衝撃で、ヒトラーの人形は跡形もないほど砕け散った。ライトが2人にヒトラーの肖像を映して終わる。