冷水曇り空の夜だった。星も月も見えない暗い夜は、常宿になどいるものではない。特に、ファデュイの執行官なんて恨みを買う立場にいる者は。
その夜も、タルタリヤは懇意にしている先生がいる往生堂へ向かおうとした。だが、辺り一面に漂う独特の香の匂いに落胆せざるを得なかった。
往生堂の前では、渡し守の女性が静かに頭を下げている。灯籠にぽつぽつと明かりが灯され、街の人々が往生堂を避けるように去って行き、沈黙が支配していく。
葬儀だ。
今日は駄目か、とタルタリヤはため息を吐き、踵を返した。葬儀なんてものに最も似合わない自分が他人様の別れの儀など見ていていいものではないだろう。それに、鍾離と酒が飲めないのなら何の興味もない。
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