無題木々が青青と滴る巨大な樹。
錆色をした鉄の風車。
古樹と鉄鏽の合間を新しい風が吹き渡り、生と死が繰り返され、循環する景色。
それが檜佐木修兵の精神世界だ。
「ったく、今日も今日とて変わり映えしねぇな此処は」
風車の下に座り込み、風死は誰に言うでもなく呟いた。
ついと見上げれば、そこには晴れ渡ることもなければ雨が降りだしそうというわけでもない、なんとも言えない空が広がっている。
「つまんねぇ世界だ」
風死はハァと息をついて辟易した。
どこまでも変わらない景色にも、いつまでも変わらない檜佐木にも。
精神世界は鏡だ。この世界は、世界主の心情を景色として具に映しだす。この世界が変わらないということは即ち、檜佐木の心情に大きな変化がないということに等しい。
それが良いことなのか悪いことなのか、風死には判じきれない。しかし例え『恐怖』という感情であっても、それは自分のものなのだから、余すことなく寄越すべきだという、ある種傲慢な思いはある。
「だが、まあ……あん時よりはマシか」
あの時――東仙要が護廷十三隊を裏切り、死神と敵対した時。
空は赤橙に染まり、闇が訪れることはなかった。夕陽が木々を焼き、風車は回ることなく羽根が頂点を過ぎた状態で止まっていた。
風が止み、凪いだ世界。
いっそ黒々とした曇天のもと、大雨でも降ってくれればどれだけ良かったことかと、風死はあの頃を振り返る。
気弱で、泣き虫で、怖がりだったはずの男が、いつからか自身の感情に不器用になってしまった。
それはもしかしたら、かつて六車に「泣くな」と言われたからかもしれないし、副隊長という立場が涙を奪ったのかもしれない。
しかし理由はなんであれ、もう二度とあんな景色は目にしたくなかった。
東から差し込んでくる淡い光が常緑の葉に降り注ぐ。風車の羽根が風を切りながら頂点にさしかかろうとしていた。
「まったくつまんねぇ世界だ」