Until The Stars Fade“Until the Stars Fade” – The Night They Moved Together
キャビンの中の静寂は完璧だった。
冷めた静けさではない―暖かく、本音が溢れ出した後のような空気感で満たされてい
る。例え実際に何も話されていなかったとしても。
暖炉の火は小さな炭と化して、木の床とベッドの上に琥珀色の長い影を投げている。ひ
びの入った窓は僅かに開いていた。小風がささやきのように部屋の中を吹き去っていく。
サムはマットレスに仰向けになって寝転がっていた。裸の胸をさらけ出してゆっくり息
をしている。バッキーはサムのすぐ隣で、膝を立てて座り、サムだけを見つめていた。彼の腕―肉の右腕と、鉄の左腕―サムの肌の上で揺れている、まだ地肌には触れて
いない。この瞬間はまるで祈りのように感じる。
バッキーはサムのこの瞬間を覚えようと必死だ。目ではなく、敬意をこめて。
サムもまた、肘をついて体を支えながら彼を見つめていた。シーツはサムの臀部付近で
緩やかに集まっている。彼の唇は微かに開き、胸が熱くなり、呼吸が乱れる——それは緊張からではなく、期待からだった。
彼はバッキーのことを信頼している、完全に。
「震えてる」
サムは優しく言った。バッキーは顔を上げて、少し驚いた。彼の口元には
歪んだ笑顔が見える。
「ああ」
バッキーは呟いた。震えながら彼は笑い出した。
「心配してくれるなんてな、サム」
彼はサムに覆い被さり、鎖骨に沿って軽いキスをなぞり始めた。肩からもう片方の肩ま
で。ゆっくりと、意図的に、情熱を全ての口付けに込めて。
サムは目を閉じた。彼の手は彷徨い―そしてバッキーの腕、方、首の後ろに辿り着い
た。彼は強く、堅固で、地に足がついた感覚がした。そう、安全だった。
「バッキー」
今、サムの声はより静かになった。少し声がかすれながらも
「…欲しい」
そうつぶやいた。
「同じ、同じだよ」
だが彼は急がなかった。
彼は手の届くことが出来る全ての場所にキスをした。
サムの肩の曲線や、喉仏、彼の肋骨のすぐ下にある柔らかい窪み。バッキーは手の甲で
彼の脇腹に沿って線を描いた。彼は低く身を屈め、サムの腹部に頬を当てて、長い息を吸い込んだ。彼の重みは暖かく、静かで、安定している。それがサムの手を彼の髪に本能的に辿り着かせた。
「綺麗だよ、サム」
バッキーは彼の肌に凭れたまま呟いた。
「あんたのものだよ」
サムは柔らかく、しかし力強く答えた。
「お前がしたいことを、俺としよう」
バッキーは鋭く息を吸った。彼の体はまるでこの瞬間は抱え込むには大きすぎた
かのように震えだした。彼は起き上がり、サムのことを見つめた。
「俺はただお前を愛する、それだけだよ」
シーツは投げ出された。彼らは気付いていない。涼しい風は彼らの温かい肌を過ぎ去っ
て消えたことに。残ったものは熱、肌、より近くいたいという切実な欲求だけだった。
バッキーは彼に寄り掛かり、頭のすぐ隣のマットレスに右手をつき、もう片方の手は彼
の脇腹を優しく撫でまわした。
サムの太腿は本能的に開かれた。彼を迎え入れるため、欲望のためじゃない、ただ愛の
ために。長年待ってきたからこそ、選ぶこと、知ることを通じて培われたような、ある種の準備が整っていた。
彼らの互いの額が触れ合い、鼻が擦れ合う。そして共に息をする。
「準備はいいか?」
バッキーは辛うじて出る声でそう尋ねた。
サムは笑い、そして目を輝かせながらこう言った。
「もう大丈夫だって分かっている癖に」
そして注意深く、優しく、敬虔に。彼らは繋がった。
そこには叫び声はなかった。荒々しい息遣いもなかった。
ただ長い、二人の息が低く漏れる。彼らの身体が、二人が知る限り最も古いリズムに
合わせ、一つになった。それは不可能なほど近く、完璧に重なっている。サムの喉からまるでそれは呻き声というより、むしろため息のような音が響いた。バッキーはその音を聞きながらキスをした。
二人は少しだけ動かずに止まった。ただお互いを抱きしめ、感じるだけ。バッキーはサ
ムの腰に手を滑らせた、彼を固定し安定させるために。サムの指はバッキーの肩を優しい手つきで触れている。
そのままバッキーの唇にキスをした。
「一緒に動いて」
そのまま二人は腰を動かした。ゆっくりと、優しく、軽やかに。
二人は互いに凭れかかり最初からまた動き始めた。まるでこれは愛だけではない。二人の体は既に知っていたかのようだった。
バッキーは何度も何度もサムの名前を囁いた。まるで祈りのように、誓いのように。
「バック」
それは息を呑む崇拝のようなものだった、彼の手は何度もバッキーの背中
を撫でおろした、まるで彼を忘れまいと試みるかのように。
リズムは遅く、そしてよりゆっくりになった。まるで時間がとても速く過ぎ去るのが許
されていないかのようだった。
バッキーがより深く突いた時、サムがさらに開いた時、どちらも話そうとしなかった。
だが二人の体は語り合う。二人の呻く声がそれを物語り、密接な繋がりは明日を約束するかのようだ。二人は互いに息を切らし、尽き果てるまで動き続けた。それが限界を超えた時、彼らは共に果てた。音ではなく、静けさと共に。胸を上下に動かし、腕を固く組み、果てた時でさえ唇は離れることはなかった。
二人は離れようとしなかった。
バッキーはその後も長い間サムの上に横たわったままだった。顔はサムの肩に押し当て
られ、手はサムの肋骨に柔らかい模様を描いていた。
サムはまだバッキーの息を離さないでいた。片方の手を彼の首の後ろへと持ち上げて優
しく包み込んだ、まるでこの瞬間が続かないかもと恐れているかのように。
二人はただお互いを抱きしめた。肌と肌、傷と傷、そして愛を重ねて。
なぜなら、これほどまでに価値あると感じたことは他になかったからだ。
“Until the Stars Fade” — A Quiet Return to Each Other
キャビンの中の空気は暖かく、微かに煙と肌の匂いがする。
火は落ち着いたオレンジ色に褪せ、外の世界の夜は囁いているが、二人だけの世界ではサムはシーツの下で少し体を動かし、バッキーの手がまだ緩やかに胸の上に置かれたまま、少しだけ力を込めた瞬間、ゆっくりと息を吸い込んだ。
お互いに動こうとしなかった。
そうする必要がなかったからだ。
だが今、静けさの中で何かが切り替わった。急かされるわけでもない、切望さえもない。それは重力だった。静かな引力、悟りだった。
バッキーはサムの素肌の肩にキスを落とした。彼の鼻の先がサムの汗ばんでいる涼しげな肌を撫でる。サムはため息をついた、疲れを見せない息のようなものだ。彼は待っている。バッキーの唇はサムの耳の近くをさ迷った。
「まだいけるだろ、サム?」彼はそう囁いた。
サムは一度だけうなずいた。
「あぁ」彼は息を吸ってから「まだお前が欲しい」と呟いた。
彼は肌越しにバッキーの笑顔を感じ取った。
二人の間にはこれ以上の疑問は浮かばなかった。
ただ動くだけ。軽やかに、ゆったりと。
バッキーの手はサムの腰に滑り落ちていく。彼の指は臀部の曲線をなぞった。その触れ方はサムを震えさせた。それは寒さから来たものではなく、彼から感じた視線からだった。
サムは足を前に少し曲げた。開いたその空間に誘うために。彼は振り返らなかった、そしてその必要はなかった。
サムは後ろに居るバッキーを信用しているからだ。
完全に、彼のことを。
バッキーはサムに凭れかかった、注意深く、温かく、彼の胸はサムの脊椎の曲線にキスする時に背中と擦れあう。何度もゆっくりとキスを落とす。ひとつは辛抱強く。もうひとつはここにいると伝えるかのように、または許しを得るかのように。
そしてその度にサムは呟いた。
「早く…」
バッキーはやっと彼の背中に落ち着き、両手は今、サムの腰を掴んだ。優しく挟み、決して強要しない。
サムはほんの少しだけ押し返した。少しずつ慣れていくために。 急がなくていい、プレッシャーも存在しない。ただ二人は再び動き始めた、一回だけでは足りなかったから。
決して十分ではないだろう。
二人の体はより近づいた。肌と肌、互いの温もりが共にある。
バッキーはサムを抱きしめ、ゆっくりと、でも確かに、彼のリズムはサムの吐息に合わせて二人は体を揺らした。サムは軽く体を反らせ、頭を枕に落として、静かなため息を吐き出した。
それは慌ただしくなく、
荒々しいものでもない。
でも現実で、地に足がついた、永遠だった。
バッキーはサムに抱きつくたび彼のことを気に掛けて、片方の手はマットレスに突いている手を握り、二人の指は再び交わった。サムは手が交わる度、何度も握り返した。
二人は何も話さない。
言葉さえもだ。
だが二人の体は息遣いで語っていた。
サムは呻り声をあげる中、頭を少し後ろに傾けた瞬間にバッキーは彼の肩、のど、顎の曲線に沿ってキスを押し当てた。
バッキーはまた彼の名前を囁いた。「サム……サム…」と、まるで家に居るような感覚だ。または夢から彼を起こそうとするのを恐れているかのようだ。
サムは軽く赤面して、呟いた。
「止めないでくれ」
彼はそうしなかった。
二人はまるで世界が存在しないかのように、
次の朝がやってこないかのように、
二人が必要な時間すべてを共に過ごしたかのように。
そして二度目の波が押し寄せた時、痛みはゆっくりと甘く広がり、再び彼らの内側で砕け散った。彼らは共にそれを乗り越えた。
叫び声もない。
息遣いと、
親密さと、
後の静けさだけだった。
バッキーは後ろからきつくサムを抱きしめた。互いの体は静かに震えていて、まるで二人の間で同じリズムを見つけたかのように胸を上下に揺らし、そして離すことを拒んだ。
二人は離れようとしなかった。
長い間、暖炉の火が消えたとしても、または空にある月が沈みだした時でも離れなかった。
二人はそのままお互いを抱きしめ合ったままでいた、程よく互いの肌が密着していて、吐息は熱く正直だった。今は触れるすべてが怠惰に感じるが、美しくもある。
バッキーはサムの首の後ろをもう一度、今度はより軽やかにキスをした。サムが息を吐き、少しだけ後ろにずれて、より深く彼に押し付けるようにした。
「バッキー?」
「ん?」
「あんたはおれを…」
彼は言葉を詰まらせ、全てを言い切れないほど胸がいっぱいだった。バッキーはサムの耳に鼻を軽く押して答えた。
「分かってるよ」
“Until the Stars Fade” — One More Time
キャビンは闇に包まれた。
暖炉の火は燃え尽きた。
窓から差し込む月明かりと肌に寄り掛かる静かな吐息の音だけだった。
二人は殆ど動かずにいた。サムは窓の方を見て未だ横になっている。肌は湿って赤らんでいて、息は落ち付いたがそれでもまだ彼はそのすべてから完全に冷静さを取り戻していなかった。彼の指はまだ彼の腰に添えられているバッキーの指に絡めた。
それでバッキーは?
忙しさもない、貪欲さは消え去り、
ただ…優しさだけが残った。
彼はまたサムの背中に胸を押し当て、膝をサムの足に収まっている。温かい手は彼の腕に沿って、彼の肘から肩まで滑るように上がる。そしてまた下がる。まるで彼の全てを記憶に刻み込むかのように彼はサムに触った。
バッキーは身を屈めて、サムの脊椎の頂点にキスをした、肩甲骨のちょうど間に。
サムは思わず息を漏らす。彼の手はバッキーの手にきつく包み込まれている。彼は何も言わなかった、必要ないからだ。体は既に次に何が来るかを知っているようだ。
バッキーは彼を引き戻した。優しく、しかし確固たる目的を持って。
片方の腕はサムの胸の周りに入れ込み、もう片方は彼の腕を掴み、バッキーの首の周りに戻した。一瞬の沈黙の後、滑らかな動きで彼はサムを自分に密着させ、彼の体の曲線により深く互いの足を押し当てた。二人の息遣いは再び重なった。
サムはゆっくりと息を吐いて、頭をわずかにバッキーの肩に寄り掛かった。
「まだ足りない、そうだろ?」
バッキーの唇は既に彼の喉をなぞっていた。
「馬鹿野郎」
サムは笑った。
そして、バッキーは動き始めた。
速くない、意図してそうしたわけでもない。
彼のあらゆる動きが遅く、安定している。彼の体の動きの一つ一つは計算されていた—サムを圧倒するためではなく、彼を気持ちよくさせるためだけに。バッキーはサムをどれ程欲していたのか、どれ程サムを愛しているのかを率直に知って欲しかった。彼の鉄製の腕はサムの臀部を掴んだままだ。彼を優しく固定している。もう片方の手は再びサムの手を追いかけ、捕まえた手をマットレスの上に戻し、その互いの手はきつく絡み合っている。
サムは背中を反らし、少しうめき声をあげた。
痛みから来たものではなく、
他人の手に委ねられている安心感から。
「バック…」彼は息をしてから、名前を呼んだ。
バッキーはまたサムの首筋にキスをして、そして彼の耳に囁いた。
「ゆっくり動くぞ。俺はお前を大切にしたい。いつだって…」
そして言葉の通り、彼は動きを緩めた。
動くリズムが強くなったとしても、二人の息が激しくなり肌に熱が帯びたとしても、バッキーは決して優しさを失うことはなかった。彼は届く範囲のサムの全ての場所に口付けをするのを止めなかった。手もずっと離さないままだった。
二人は波のように揺れ合った。それはまるで始まりも、終わりもない。動きだけが、リズムだけが、肌と汗と愛の言葉だけだった。
サムの声が静かな吐息と共に途絶えた。
「バック…俺―」
バッキーはサムをきつく抱き寄せた。
「いいよ、サム」
そして彼らが再び果てた時、それは欲望からではなかった。
それは信頼からだった。
二人が抱えていた全てがやっと自由になったからだ。
バッキーはサムの体を包みこんだままでいた、二人とも震え、輝き、密着している。二人の息遣いは再び遅くなり、そして、バッキーは額をサムの肩に寄り掛かって、軽くキスをした。感謝の意を表すように。
サムはついに彼の腕の中に潜り込み、彼と顔を合わせるためにゆっくりと頭を上げた。
二人の額は出会い、
鼻同士はくっ付き合っている。
そしてバッキーは呟いた、辛うじて聞こえるような声で。
「ただのセックスじゃなかった」
サムは瞬きをし、混乱した。唇は歪んで「何?」そう叫んだ。
バッキーは笑って、親指でサムの顎をなぞった。
「何年もずっとサムを望んでいたんだ。すべてが一瞬に感じた」
サムの息が詰まった。
彼は優しくゆっくりとキスをした。
どちらもしばらく離さなかった。
“Until the Stars Fade” — One More Time, Without Words
キャビンは変わらずそのまま真っ暗で、だが中の空気は変わっていた。
今はより薄く、ゆったりとしている。
本当は二人は寝るべきだった。
だが二人は何度も身を寄せ合った、軽やかで、安定した時間を過ごした。二人は互いを近く抱き寄せ合い、互いの名前を呼び合い、息遣いは一つに溶け合っていた。
バッキーはサムに触れるのを止めることが出来なかった。
そしてサムもそれを望まずにはいられなかった。
未だにブランケットの下で絡み合い、汗の光沢が彼らの肌の上で冷えていた。サムはうつ伏せの姿勢で横たわり、バッキーの方に顔を向け目を閉じていたが、呼吸は軽く不規則だった。
サムは手を枕の下に入れ込んで、体は再び落ち着きを取り戻し始めたところだった。
だがその時、彼はバッキーが背骨を手で撫で始めたのを感じ取った。ゆっくりだが、確かに触れられていた。
サムは少し目を開けて、喉からほんの少しの声で「バック?」と名前を呼んだ。
だがバッキーはすぐに答えなかった。
その代わりに、バッキーはサムの肩の後ろにキスをした。軽く、沈黙の約束を交わすかのように。一つのキス、二個目のキス、次は彼の唇は肩甲骨の間を優しく滑った。
そして彼はサムの体を仰向けに動かして、また腰を動かし始めた。
言葉も、疑いもなしに。
ただゆっくりと、バッキーの安定した腰の動きで彼は何度も突かれた。本能、疼き、確信と共に。
サムは呻った。
驚いたからではなく、まだ欲していたことを彼が行動するまでずっと気付かなかったからだ。
「バック!」彼の声は軽く掠れた、驚きと降伏の感情を両方持ち合わせて。
バッキーは彼の首、顎、耳にキスをした後、「静かに」と囁いた。
彼の手がサムの腕をなで上げ、肋骨に沿って下り、優しく彼を支えた。彼を抑え込んでいるわけではなく、ただ彼を支えているだけだ。
サムは瞬きをして、彼の胸の中で息をした。サムは既にバッキーを受け入れ始めていた。彼の体は本能的に落ち着き、背中が反れるには十分なほど、筋肉の緊張は緩まっていた。
彼の体はバッキーが囁くまで、自分が動いたことに気づかなかった。
「いいって言うって俺は分かってたよ」
そう、結局彼を招き入れたのだ。
サムは僅かに顔を上げた。唇は別れ、心臓は強く脈を打っている。
「もともとそうするつもりだったのか!?」
彼は息を切らしながらそう言った。だが全くもって怒ってはいない。
バッキーはサムの肌越しに微笑んで
「せずにはいられなかったんだよ」
二人の体がゆっくりとした動きで互いに押し合った。
「本当に綺麗だ、サム」
バッキーは続けてそう呟いた。
サムの口から低い声が漏れだした、半分は笑い声で、残りは呻った声。するとサムは彼を押し返した。どれ程求めていたのかをバッキーにそのまま分からせようとした。
彼は単にこれで満足していたわけではなかった。ただ必要としていただけだった。
その後も誰からも急かされない、荒々しくもない、ただ…静かな情熱、そして二人の間で生まれたリズムだけ。
バッキーはサムを強く抱きしめた。胸から背中まで、腕が彼を包み込むように巻き付いている。彼の唇はサムの肩や首、背骨から決して離れなかった。サムのあらゆる場所をキスし続けた。 まるで彼を信仰、崇拝するかのように。
サムは諦めた。身体はそれぞれの動きに溶け込み、バッキーが奥を押し上げるたびに息が詰まった。指で枕をぎゅっと握りしめた。漏れる声はさっきよりも掠れているが、しかし、彼が発したすべては“yes”だった。
こんな風に、こんなに深く愛されることには。全てが終わってもまだ求められていることはどれほど幸せなことなのか。
「愛してる」
バッキーはサムの耳の下の、ほんのわずかな空間で呟いた。
「俺も」
もう一つのキスと、
もう一つの深い、ゆっくりとした突き。
二人は、世界が静まり返ったかのように一緒に動いた。
この瞬間は、ただ二人のものだけではない。二人の中に刻み込まれていた。
そしてまた限界に達した時、サムはより呻り、彼の腰を掴んでいたバッキーの指は少し食い込んだ時、二人は再び静かに、でも力強く共に果て、崩れ落ちた。
二人の間に一切の隙間はない。
躊躇いもない。
愛だけがそこにはある。
二人はそのままでいた。肌はつやつやと光り、震えていた。暗闇の中で息が混じり合い、腕は固く絡み合っていた。
そう、この時、この時だけは、二人は動かずにいた。
バッキーの手はサムの胸に舞い戻り、まるで世界から彼を守る盾のように指を広げた。
サムは息を吐いた、長く静かに、バッキーの腕の甲にキスを押し当てる為に程良い角度で体を傾けた。
「こんな自分が存在していたなんてな…」
バッキーは軽やかに、クスクスと笑った。
「してたさ。ずっとただ、それを引き出す適切な相手が必要だっただけだ」
サムは鼻を鳴らした。何かをするにはあまりにも疲れすぎているが、それでも笑った。
「生意気な奴」
バッキーは彼の頭のてっぺんにキスをした。
「お前にだけだよ、可愛いサムにだけ」
そしてついに、二人は落ち着きを取り戻した。
共に、誰も邪魔されない、平和の中で。
夜がまだほんの少し、二人を抱きしめている間、
まだ二人は眠らなかった。まだ眠れる気分にならなかったから。
“Until the Stars Fade” – Morning on the Porch
太陽が生い茂る木の後ろからのんびりと黄金色に光りながら昇った。キャビンの床板にはまるで蜂蜜をこぼしたような柔らかい明りを投げかけている。
ベッドルームには穏やかな眠りと昨晩燃え続けた日の残り香のような空気が満ちている。
サムが初めに目を覚ました。
ゆっくりとまばたきをしながら天井を見つめ、彼の体の端から端までが最高の心地良さの中、温かいが少し痛む。片腕は冷たいリネンのシーツの上に投げ出されていた。もう片方の腕はどうなのか?まるで人間がブランケットになったかのように、サムの上に半分乗り出しているバッキーと密着していた。彼の片方の足はサムの足と絡まり、腕は肋骨を包みこみ、顔はサムの首元に半分埋まっている。
彼は重かった。
だけど温かく、寝相も悪くないため、
サムは何も気にならなかった。ほんの少しも。
彼はあと少しだけ、そのままでいた。静けさは二人を包みこむ。外の世界では鳥が鳴いている。風で木がざわめいている。世界はまた始まりを告げたが、二人はその必要はまだ無かった。やっとのことでサムはベッドの側で見つけたシャツに辿り着いた。それはバッキーのものだった。柔らかいコットンのもの。着崩されている。彼の匂いがした。
サムはのんびりとそのシャツを身に着け、キッチンへと向かった。
数分後にはコーヒーが淹れられ、キャビンを満たす香りは、新しい一日への柔らかな鼓動のように響いていた。
「…置いていったな」
ベッドルームから荒っぽい声が聞こえてきた。サムはマグカップに微笑んだ。
「俺の首元で涎垂らしていたぞ」
バッキーは少ししたら現れた、髪の毛はぼさぼさで、スウェットパンツが腰低く身に着けられている。ブランケットは肩の半分に掛かったままだった。まるで太陽は彼にだけ攻撃するかのように照らし、彼は思わず目を細めた。
「垂らしてない」
サムはゆっくりと振り向いて、片方の眉毛を上げた。
バッキーは瞬きをした。彼の目はサムの着ているシャツに目が行った。
「これ俺の?」
「そうだ」
サムは長めにコーヒーを啜った。そしてにやけた。
「俺の方が似合っているな」
バッキーは眠そうに、ため息交じりの笑いをあげて、歩み寄ってサムの頬にキスをした。彼は引き離さなかった。
代わりに、そのままサムの腰に手を回し、鼻で彼の喉の側を撫でた。
サムは黙り込んでいる。
バッキーの唇は彼の顎の下をただキスをした。一回、そして二回も。
すると彼は彼に凭れかかり、にやりと笑った。
「それで…」
彼は知らないふりをしてこう言った。
「まだ首のそれは見てないか?」
サムはぱちぱちと何度も瞬きをした。
「…はぁ?」
バッキーは彼にいたずらっぽい目つきを向けた後、コーヒーに手を伸ばした。
「何でもない。ただ聞いただけだって。二人で街に出かけるか何かする前にサムは鏡を見るかもしれないしな」
サムは目を細めた。
バスルームへと足を運び電気を付けた。そしてサムは凍りついた。
右耳のちょうど下、彼の髪の巻き毛の近くやバッキーの黒シャツの襟元に、紛れもない印があった。
数えてみると、一個以上ある。
サムは鏡越しに自分を見つめて、唸り声と共に首を傾げた。
「まじかよ」
バッキーは彼のマグカップを手にドアフレームに体を預けた。まるで勝ち誇ったかのようにニヤニヤと笑っている。
「なぁ、俺はあんたに何をしてもいいと言ったよな?」
「言ったさ。全くもって感情的だった」
バッキーはコーヒーを啜った。
「そうだ、俺はサムの首元にめちゃくちゃ惹かれてしまったからな」
サムは呆れて目を回したが、彼が微笑み、そして頬は赤く染まった。
彼は全く怒ってはいない。
信頼からだろう。
彼は、守られているような、
愛されているような、
特別な存在だと感じさせられた。
サムは振り返り、笑いを堪えて、バッキーの胸を指で突いた。
「俺に愛されて本当、ラッキーだな」
バッキーは身を乗り出して、ゆっくりとサムにキスをした。
「本当にな」
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Later — On the Porch
二人は小さなソファに座った。マグカップにコーヒーは満杯に入っていて、静けさに包まれ小鳥のさえずりしか聞こえてこない。バッキーは彼のすぐ隣にいて、肘は手すりに置かれ、指はサムの膝を優しく撫でている。
サムは未だバッキーのシャツを着ている。バッキーは未だ寝起きのままの格好でいる。
それでも完璧だった。
二人は殆ど話さなかった。柔らかい笑顔が二つと、小さな視線がすべてを物語っていた。
ついにサムは低い声で呟いた。
「一緒に目覚めるの、気分がいいな」
バッキーは頷き、少し黙ってから呟いた。
「まるで故郷に居るみたいだ」
サムはマグカップに微笑んだ。
バッキーはより近づいて、サムの首元にあるキスマークを親指で優しく触れた。
「まだ申し訳ないと思ってないからな」
サムは唸りながら、それでも彼に寄りかかった。
「誰かがこれを見たら、そう思うだろうよ」
「見させとけばいい」
バッキーは優しく言って、サムの肩にキスをした。
「サムが俺に愛されているって見せつけてやればいい」
サムはそれに反論はしなかった。
彼はただバッキーの頭に頭を寄りかからせ、
「はいはい」と囁いた。
なぜなら、それが彼に美しいと、安全だと感じさせたからだ。
そして何よりも、愛されているとサムは実感していた。