違和感の塊 2「いやー、ほんと助かったよ」
赤子たちを赤い布に寝かせ案内した川のほとりでせっせと布おむつを洗う謎の珠魅。
「……その核、お前は水晶の珠魅か?」
透き通る透明な石。
石としてのランクは低いが全ての石において群を抜いた『浄化』をもつ鉱物。
とくに珠魅の核からは曇り一つない煌めきと膨大なマナの気配が感じ取れた。
「んー、まぁ一応分類的にはそうなるかな?」
「なんだその煮えくらない返事は」
「半分あたりで半分外れってこと」
綺麗になった布おむつの水気をはらい仕舞うとあらためてこちらに体を向けてくる。
「では改めまして、俺はクオーツ、見ての通り子連れの旅人だよ」
「私は黒真珠の珠魅、レディパールだ。騎士だ」
互いの核を共鳴させれば澄んだ音と輝きが溢れる。
彼ならもしかしてと直感が脳裏を走った。
「クオーツ、不躾で悪いが答えてくれ。お前は……どっちだ?」
率直にぶつけた質問。
あれだけ戦えるのだから騎士である可能性は高いのだが……。
「んー……。どっちでもできる、かな?」
「!!」
どっちでもという事はつまり……。
「涙石を!涙石を流せるのか?!」
感情が昂り思わずクオーツの腕を掴んで迫ってしまう。
長い年月,探し求めているモノを流せる可能性がある存在が目の前にいるのだから。
「流せるな」
「ならっ!」
「だけど流さないよ?」
スッと掴んでいた腕を最も簡単に解かれてしまった。
「オレはキミの事情を知らないからね。」
知らないのに泣け言われても無理ってもんだよと肩をすくめ赤子達のそばに座り込み、目覚めて少しぐずり始めた片方を抱っこしてあやし始めた。
「涙を流せれたとしても、オレは、この子達の騎士だからね。」
言われてみれば当たり前の事である。
自分がどれだけ焦っていたか、思い知らされ息を呑む。
「……すまない。」
「レディパール、まずは話してもらえるかな?キミの抱える事情を」
おいでおいでと促されてそばに座ればいきなり赤子を渡される。
「えっ!ちょ、クオーツ?!」
「しー。大きな声を出すと起きちゃうよ。」
クオーツは自分の声に反応し、ふにゃっと漏らし始めた赤子の頭を撫でまた寝かすともう一人の赤子を腕に抱く
「赤子を抱いていると心が落ち着くものだよ。」
確かに初めて抱いた赤子の柔らかさと暖かさに焦っていた心が次第に落ち着いてくるのが分かった。
「じゃぁ、聞かせてキミのこと」
「あぁ……」
「…………なるほどね。確かにそれはちょっと焦る案件だね。」
「だからこそ、クオーツに協力して欲しい。お前がいてくれれば蛍姫も…「無理だな。オレは、オレに課せられた使命がある。同じところに止まる気はない」っ!!」
キッパリとした拒絶。
「珠魅は、根本的な事を思い出さない限り、未来はないぞ」
「…………」
かつて誰しもが涙石を流す事ができたという。
残酷な歴史が、珠魅の全てを変えてしまったのだ。
「いったい……どうすればいいというのだ……。我々にはもう,手が残っていないというのに……」
泣けるものなら泣きたい。
助けられるものなら助けたい。
だと言うのに、自分には、戦う事しかできなかった。
「……もう一度。もう一度珠魅たちが本当の意味で思いを取り戻した時、今の状況は変わる」
赤子を自分から受け取り静かに立ち上がるクオーツ。
何か聞き取れぬ音を口にすれば赤い布が1人でに赤子たちを包みクオーツの体に巻きつけた。
「レディパール」
「……なんだ?」
「ほれ」
手の中の落とされた一粒の光の塊。
「ついでにサービスだ」
クオーツの手が先の戦闘でついた自分の僅かな核の傷に押し当てられる。
すぅっと体の何かが満ちていく。
「涙……石……」
「ここに案内してくれた礼だ」
「クオーツ」
「それを持ってってやんな。一時凌ぎだとしても、今のお前等にはその子は希望なのだろう?」
「一緒、といっても無理だろうな……」
無理だと分かっていても口にした自分の肩をポンと軽く触れクオーツは歩き出す。
「じゃぁな、心優しい黒真珠のお嬢さん。マナの女神の祝福あれ」
振り返る事なく去っていくその背を見送り手の中に残された小さな涙石を握る。
「……いこう」
一時凌ぎだとしても手に入れた希望を届けるため、その場を後にした。
<<補足>>
クオーツの使命はLoM主の双子を本当の意味で愛を持って育ててくれる人探しだったりします。
我が家のLoM主の双子は赤子の姿をしていますがまだ本質はマナの種である為、ファ・ディールの地に生きる者に愛を持って育ててもらう事により発芽し『人』として成長する事ができます。
クオーツ自体はマナの樹の領域のマナストーン的存在である為育ててあげることはできないわけです。
彼はこの後数十年は余裕でファ・ディールの地を世話しながら彷徨い探し歩きます。