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むぎ。

自主練駆け出しホストの一二三と、大学生独歩。両片想いな、ひふど【side:D】
※この前の続きっぽいオマケ話。
自己嫌悪も自己否定も、独歩にとっては最早ルーチンワークのようなものだ。別に望んでなんていないけれど、定期的にやってくる。

あー…本当に、いらんことした。

独歩はシャワーの下にうずくまり、排水口へと流れていく水を眺めながら、心の内で呟いた。一二三が夕食を作ってくれているから、早く出なければと思うのに、ちっとも心が頭についてこない。

「……俺は…どうしたらいいんだ…」

独歩はさっきよりも更に混乱した頭を抱えたまま、ぽつりと零す。酒なんてとおに抜けているのに、頭の中が上手く整理できないのは、アレを買ってしまったのは本当にうっかりだったからだ。

だから買った直後だって、どうやって渡したらいいのかわからなくて。ゼミの飲み会中、ぐるぐると考えに考えて、出した結論はこの状況を利用するということ。極度に酔ったふりをして渡せば、一二三だって渡した意味を深く考えたりなんてしないだろうし、気に入らなければ捨ててくれるだろうとも思っていた。

そう思っていたからこそ、答えなんて受け取らないまま風呂場へと逃げ込んだのに、慌ただしく独歩を追いかけて来た一二三の言葉はひどく予想外で、どう受け取っていいのかわからない。空気が読めないくせに、意外と独歩の挙動はよく見ている彼のことだから、たぶん気を使っての反応だとは思うのだが、どこか期待してしまいそうな自分も少なからずいて、ひどく気持ち悪い。

「……やっぱ、俺なんかが買うんじゃなかった…」

叶うことならばピアスを手にした瞬間に戻って、自分のことをぶん殴ってでも止めたい。

独歩は酒のせいでわずかに掠れた声で、くちにする。

「…なれないことをすると、すぐこうなる」

もっともそんなことを言っても、あのピアスを見つけたのは、本当に偶然だった。レポートの提出をしてから向かうからと、ひとり遅れて向かった飲み屋への道すがら、普段は気にもとめていなかった店のショーウィンドウ越しに見つけた黄色いバラが、一二三の瞳の色のように見えて足を止めた。
興味を持ったのなんて、あいつなら似合いそうだな、という本当にそれだけのこと。
それなのに飾られたピアスの横に添えられていた石の説明を何気なく読んで、そこからレジに向かうまでの記憶が完全に飛んでいる。どうせなら店を出るまで我になど返らなければよかったのに、プレゼントですか? と聞かれた最悪のタイミングで現実に引き戻され、勢いよく違いますっ! と、否定をくちにしてしまったことは記憶に新しい。

「……どっからどうみたって、俺がつけるなんて気持ち悪いだろ…」

まだ素直に、プレゼントです、と言った方がマシだったような気もするが、あのときの独歩にはそんな判断能力はなかった。
もしもあったとすれば、いくら幼馴染とはいえ、自分なんかが一二三にアクセサリーを贈るなんて馬鹿じゃないのかと、冷静な自分がどこかにいたくらいだろう。

それでもやっぱり買いません、と言わなかったのは、慣れない酒と、女性恐怖症ゆえの精神疲労。それに胃の中が無くなるまで吐いても、気持ち悪さが治まらず、頻繁にトイレで吐いている彼の背を幾度となく見て来たからだ。
独歩に気づかれたくないのか、いつも起こされたりはしないのだけれど、そう広くない部屋の中だ。気づくな…と言うほうが、本来難しい。

だから喉が渇いたから…と起きだして、ついでに彼の背を撫でてやれば、ありがとう、飲みすぎちった、と言って弱く笑うけれど、その姿は見ているこちらのほうが本当につらくて…。

「そんなに辛いなら…やめりゃいいのに……」

独歩は零したため息に乗せるようにして、何度も飲み込んだ言の葉を小さく吐きだす。
そう、本当はあんな石を渡すよりも、辞めろ、と言ってやったほうがいいことはわかっているのだ。このまでは一二三がいつ潰れてしまうか、わからない。

それでもその言葉をくにちにしないのは、その言葉を一二三が望んでいないことを知っているからだ。
なにせ一二三は、そこまで弱っている姿をさらしてもなお、仕事の愚痴をあまり独歩には話さない。それこそホストになると決めたときだって、独歩には一言も相談せず、出勤初日になってやっと教えてくれたくらいだ。

「……べつに、俺がとやかく言うことじゃないし…」

それに、言えば止められる可能性があることをわかっていて、最初から退路を断っていたのだろうから、生半可な覚悟で決めたことじゃないだろうことは、わかっている。
それでもなにも言って貰えなかったその事実に、あの日からずっとちりちりとした痛みがどこかで燻っていて、どうしたらいいのかわからない。

「……まぁ、俺なんかが相談して貰えるとか思うほうが、おこがましいか…」

独歩はゆっくりと、細く長いため息を吐きだす。
なにせ独歩は、彼がホストになると言い出す前から、彼が焦りを感じていることにはなんとなく気が付いていた。くちでは二十歳越えりゃこんなん治るっしょ! なんて気楽に言っていたけれど、彼は独歩が大学にいくときに、いつだって見送る笑顔に隠すようにして、揺れる瞳を寄越してきた。その意味が「普通への憧れ」だということくらい、気づかないわけがない。

それでもそれに自ら触れようとしなかったのは、独歩の方だ。幼い頃からずっと、あけっぴろげに物事を告げて来る一二三が、自分から言わないのだ。触れてはいけないのだと…そう、言い訳をした。
本当はただ、自分のせいで「あの出来事」以来、一二三が普通ではなくなってしまったという事実に、触れたくなかっただけなのに。

だから一二三が自分に相談をしてくれなかったのは、当たり前のことだと思う。

「……サイテーだな、俺は…」

…自分のことばっかじゃないか。

独歩はくしゃり、自らの髪をかきまぜる。水を吸った髪の毛はひどく重く、指先に絡みついて気持ち悪い。昔から一二三はこの髪を「ふわふわでかわいい」と言うが、男にかわいいってなんだと思うし、目が腐っているとしか思えない。

それでも出会ってからずっと、彼が独歩のことを肯定する言葉をくちにしてくれるたびに、救われて来た。それがたとえ嘘だったとしても、独歩のことを想ってくれてのことだろうということだけは、本当だったから。

「……喜んでくれたなら、なによりじゃないか」

独歩はまるで自らに言い聞かせるように、ぽつりとくちにする。
そして出しっぱなしだったシャワーを止めて、ぽたり、ぽたり。静かにおちる滴を見つめたまま、そう思い込んで、自分が楽になりたいだけなのに、我ながら汚いな…と、そんなことを思って、自嘲気味な笑みを浮かべた。





―――――――――――――――
【ひとりごと】

プレゼントを重たいものだと感じている独歩さんのお話。

仄仄の「無花果さんが合歓ちゃんを大事にしているから、合歓ちゃんを壊したくなる」という台詞を聞いて、壊されたのは一二三だからターゲットは独歩だったのでは…? という妄想を根底に書いているので、まだ高校卒業から近いこの頃が一番鬱々してるかも。負い目から、一二三の言葉を信じたくない(信じちゃいけないと思ってる)独歩の加減が難しい。2951 文字
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