後日談日和麗らかな良き日、麗しい乙女(?)たちは果樹園にて優雅にお茶を傾けていた。
「私も見たかったわ。アイリスちゃんが酔っ払っちゃった姿」
「ものすごく大変だったんだから勘弁だわ……」
「その節はまっっっことに申し訳ありませんでした……///」
シエラの希望にため息混じりでダナエが呟くと、顔を真っ赤にしてアイリスが手を合わせて机にぶつかるくらい頭を下げた。
「アイリスお姉様、とっても、その,すごかったです……///」
「あうぅぅぅ……////」
ポッと顔を赤らめて、両手で顔を押さえている真珠姫が更に呟けば、ますますアイリスは潰れていった。
「あ、でも、ルチルお兄様の歌と踊りも素敵でした!」
「あら……、ルチルくんも飲んでたの?」
「飲んだというより飲まされたってのが正しいわね。ねぇ,アイリスちゃん?」
「オボエテナイデス……」
ゴツッと遂にぶつかる音が机に響きアイリスは完全に沈黙した。
「あの恥ずかしがり屋さんのルチルくんの歌と踊り、見てみたいわね」
「すごい綺麗だったわよ」
「もう一度見たいです……。アイリスお姉様、ルチルお兄様に頼んでもらえないですか?」
「んー……,難しいかも……」
グギギと顔だけあげるとうーんと眉を顰めるアイリス。
「ルチルね,元々恥ずかしがり屋ってのもあるけど?昔とんでもない目にあってから人前は嫌がるのよ」
「とんでもない目?」
「私たち,元は捨て子で世界中を回る、歌も踊りもやるキャラバンに拾われたによね。5歳くらいの時かな、二人で初めて姐さんたちと一緒に見世の舞台に出たのよ。その時にね……、幼児趣味のキモい変態親父に二人して目をつけられたのよ」
「うわっ……」
「それはまた……」
ほんと最低と吐き捨てながらアイリスは体を起こし紅茶を口に含んだ。
「特にあの頃のルチルってまだ体もできてないし,ちっこくてぽやっとしてて、恥じらう姿なんてありえないくらい可愛かったのよ。子ラビがプルプルしてるかってくらい」
目をつけてのは帝国でも指折りの莫大な資金を持った資産家で、双子を売れとキャラバンに圧力をかけてきたのだ。
「当たり前だけどママ,あぁ座長なんだけど、初めは丁重にお断りしてたんだけど、そのうちその変態親父が痺れを切らしてね……。悪漢雇って実力行使に出てきたのよ。」
「……最低ね」
「ルチルが私を庇って連れ去られて……ブチ切れたみんなとそいつの屋敷に殴り込んだのよ……でも、……」
思い出されるその光景は、壁や床に血や人のパーツがあちこちに飛び散った部屋に佇む、血塗れのほぼ全裸のルチルの姿。
声をかければとびっきりの笑顔で振り返ってきた
『アイリス、これでもう、こわくないよ』
ルチルを本気で怖いと感じたのは、後にも先にもこの時だけである。
「……お姉様……?」
「……あぁ大丈夫よ真珠姫。無事に助け出したんだけど、それ以来ルチルは踊ったり歌ったりしなくなったのよ。私たちもそれでいいと思ったしね。」
ルチル,変態ホイホイだしとお菓子を口に放り込む。
「でも酔うと陽気になってお願い聞いてくれるみたいだから,今度また飲ませるといいわよ」
「そうね……。そういえば今度のイベントの事なんだけど……」
一瞬だけ見せたアイリスの険しい表情に何かを察し流れていく話題。
いつもと変わらぬ穏やかさを取り戻した女子会はまた楽しげな笑い声に包まれていった。