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    NaxEew

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    NaxEew

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    猿川と依央利がでてきます。カプ未満

    狼の悪夢ずっと人から嫌われてきたし、俺だって口出ししてくる他人のことは嫌いだ。
    誰も彼もがうざったい。気に食わねえ。誰かに指図されるくらいなら、俺は一人で生きていく。
    そうやって22年間、あぶれ者として生きてきた。だから孤独には嫌でも慣れた。

    白く冷たい空間にいた。
    「猿ちゃん」
    俺の名前を呼んだ幼馴染は、にこやかに笑っている。何が面白いのかいつでも薄らと笑っているやつだが、今日の笑みはなんだか憑き物が取れたというか、さっぱりしたとでもいうような爽快な笑みだ。
    「今までありがとね。」
    そいつはそう言った。
    「何が」
    「僕、素敵な人たちと出会えたんだ。見て。」
    そいつが指さすほうには、ああ、見知った顔が並んでいる。うるさくて鬱陶しい5人の同居人。
    「僕のことをこき使ってくれる人たち。僕を存在させてくれる人たち。だから、もう猿ちゃんとはお別れ!」
    「は?」
    「僕、もう猿ちゃんがいなくても大丈夫だから。じゃあ、ばいばい」
    あっけらかんとそう告げる、いやに明るい声。遠ざかっていく背中に、おい、とか待て、とか言葉を投げつけようかと思ったが、あまりに咄嗟のことでうまく声が出なかった。そうこうしている間に奴らの姿は見えなくなった。
    「………」
    呆然と立ち尽くすしかなかった。
    「いお…」

    当たり前か。
    突然別れを告げられた脳内には、妙に自分を俯瞰で見ているような冷静な諦観が転がっていた。
    「なんで」、なんて考えるまでもない。俺は人から嫌われて当たり前の存在だ。そういう生き方しかできねえし、しねえ。そうやって貫いてきた生き方があいつは気に食わなかったんだろう。
    今までもそうやって破壊されてきた人間関係は数知れず。むしろこんなに長続きする関係の方が稀有でどうかしていた。
    『こき使って!負荷を頂戴!』
    真っ黒い目に小さなハイライトを宿してそうねだってくるいおの姿が脳裏に浮かんだ。犬みてえにはしゃいでそんな意味のわかんねえことをねだってきたくせに。俺では駄目だったらしい。あいつが頑なに空っぽだと言い張るその心の大穴を、俺では満たせなかったらしい。
    チッ、と震える舌で舌打ちする。
    別に構わない。元々、誰かとずっと一緒にいるのは苦手だし、いちいち執着するのもされるのもうぜえ。それが、十年以上の付き合いのある幼馴染だとしても。

    「……」
    構わないって言ってんだろ。なのに、なんだ?心臓に氷でも当てられたかというほどに胸が痛い。世界に1人で取り残されたような大きな虚無感が押し寄せる。
    俺は心のどこかで、あいつには絶対に嫌われないだなんて甘ったれた期待をしていたのだろうか。
    だってあいつは、俺がどれだけ反発しても、雑な扱いをしても、それでもずっと離れなかったから。
    俺は俺に正直に生きてきたまでだ。自分の生き方に今更疑問も反省もない。しかしそれでも、自分勝手に生きてきた罰だろうか、などという考えが頭を掠める。俺は俺のせいでまた、大切なものを失ったのだと。
    (孤独な狼にはお似合いの姿だ)
    心の中でそう強がるように呟きながらも、焦燥と悲しみで頭が重くなって、潰れそうだった。
    脳内では数多の自身の声が反響している。

    俺が寂しいわけじゃない、あいつが俺がいなきゃ終わっちまうんだ。だから俺は仕方なくあいつのこと見といてやんなきゃいけねーんだ。おい、違うだろ。この期に及んでまだそんな強がりを言うのか。その心の奥の奥にある本心を認めろ。うるせえ。俺は別に誰ともつるまねえ、群れねえ。だから去るものは追わなくていいんだよ。だってそれはあいつが選んだことだから。なんにも選べないあいつが、自ら選んだ別れだから。

    虚栄を張って強がりを吐く心と、それでも寂しいだなんて情けなく叫ぶ弱っちい心と、諦めて孤独を受け入れろと突き放す心が脳の中で喧嘩していて、あああ、うるせえ。うるせえ。もう黙れ。俺は、俺は、俺は……。

    「猿ちゃん?」
    声をかけられて目が覚める。はっきり耳に届いたその鮮明な声を聞いて、先ほど別れを告げてきた声は夢だったのだと気づく。
    寝違えたのか、首筋に鈍い痛みを感じる。どうやらソファで寝ていたらしい。
    「どうしたの?うなされてたけど」
    いおが顔を覗き込んでくる。
    寝起きでぼんやりとした意識が、背中をじっとりと覆う気持ちの悪い寝汗に向く。
    鮮明に脳裏に残る悪夢を振り払うように頭を揺さぶった。
    「なんもねえよ」
    「ソファで寝ちゃうなんて疲れてるんじゃない?」
    「疲れてねえ」
    「そう?お風呂沸いてるから入ってきたら?それとも先にご飯にする?もうすぐできあがるよ。今日のメニューは依央利犠牲ピラフと依央利犠牲スープ!」
    あ~、うるせえ。こっちは寝起きだっつーの。いっぺんに喋られても頭回んねえよ。
    「いお」
    「ん?」
    名前を呼ぶと、半月型に弧を描く真っ黒い瞳がこっちを見つめた。
    「お前、どっか行きたいとか思ってんのか」
    寝起きの微睡みに流され、うっかり、そんな言葉が口から出てしまった。
    急に変な質問しちまったな、と思ったが一度出た言葉は取り消せない。
    いおはうーんと少し考えたあと、
    「行きたいとこかぁ。そうだなぁ、温泉街かな?猿ちゃん、熱海行けなくて悲しんでたもんね」
    と言った。どうやら、旅行するならどこに行くか、という質問だと受け取ったようだ。
    はあ、と息を吐いて起き上がる。
    「おめーが行きてえとこ聞いてんのに、俺のこと考えなくていいんだよ」
    「次はみんなで行こうね!」
    「ん……、…おー。」
    素直にそう返すといおは嬉しそうにニコッと笑った。

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