【最初から決まっているんだよ】「俺、そろそろ帰りますね」
「……うん」
夕暮れ時。公園のベンチから立ち上がった夏目に、名取はかなりの間を置いてからうなづいた。さっきまでここにいた猫は、塔子の作った夕飯を食べるためすでに歩き始めており、ベンチに残されたのは夏目と名取の二人だけだ。まだ話し足りなかっただろうか、と考えた夏目だが、名取から引き留められたことはないため不思議に思う。
「……どうかしましたか? その、話し足りないなら夜に電話でも」
「いや、そういうわけじゃないよ」
「じゃあどういう」
「……」
問い詰めたところで名取は固く口を閉ざしてしまう。やわらかな微笑みと、八の字に下げられた眉尻。なんとなく後ろ髪を引かれてる表情をしていたが、猫はすでに遠くへ行ってしまっていた。
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