【飯P】協力お待ちしてます ピッコロはいつものように、神殿から地上を見下ろしていた。見事な星月夜のやわらかい空気が、白い石畳の上にも満ちている。風は強いが、夏の夜には却って心地よさを感じさせた。
悟飯との修業の予定をふと思い出し、念話を飛ばしてみる。話しかける前に思考を覗くと、ひたすら数式が流れていく。どうやら、勉学に励んでいるらしい。
「……遅くまで感心だな。起きていてよかった」
『ピッコロさん? こんな時間に……急用ですか?』
「来週はいつもの草原ではなく、北端の山脈へ行こう、寒い土地にも慣れるべきだ」
……というのは建前で、正直なところ、そろそろ暑さにうんざりしはじめていた。思い切り寒い場所へ行ってみれば、少しは暑さが懐かしくなるかもしれない。
しかし、悟飯の返事がない。寒い場所は、嫌なのだろうか?
『……それだけですか? だったら、こんな時間に念話を繋ぐのはやめてください』
「心配せずとも、寝ていれば起こさない。話しかける前に、思考を覗いて確かめている」
『だからそれが困るって! 明日の朝でもいいでしょう!』
「何故そんなに怒る……」
珍しく声を荒げた悟飯に、ピッコロは思わず怯む。星は強い風にちらついていたが、雲はひとかけらもない。ここからは離れた悟飯の部屋の窓からも、きっと同じ夜空が見えるだろう。
『僕、もう十六歳ですよ……こんな時間に頭のなか見られて、エッチなことでも考えてたらどうするの!』
あまりに真剣に言い切る悟飯に、ピッコロは思わず脱力し、声をたてて笑った。
「なるほど、考えているんだな? 健康的で結構じゃないか、好きなだけ考えろ」
『……本気で言ってます?』
「嘘をつく必要がない」
しばらく、返事がなかった。眠ってしまったのかと思うほど長いあいだ押し黙っておいて、ようやくゆっくりと、悟飯の声が聞こえる。
『ピッコロさん。今から、思考を覗いてもいいです。健康的な僕がどういう想像をしているか、ピッコロさんにも見せてあげます』
「改まって、どうした」
『僕の健康のために、ピッコロさんは想像の実現に協力してくれますよね』
「それはまぁ……勿論」
そう答えると、悟飯は再び沈黙する。もはや説明する気はなく、思考を覗けということだろう。可愛がっている悟飯のことだ、実現とやらに手を貸せるのならば、吝かではない。
ピッコロは目を伏せ、悟飯の家のある方角を見下ろす。どちらを向いていようと、念話が繋がっていれば思考を覗けないということはないのだが、真剣な声音の悟飯に真剣に応えなければという気持があった。夜風はますます強くなり、耳元で乱暴な音を立てる。
やがてゆっくりと、悟飯の思考が流れ込んでくる。言葉ではなく、はっきりとした映像と、音声のイメージとして。
――悟飯の名を、呼ぶ声がした。見回せば、薄暗い部屋の寝台に、誰かがしどけなく横たわっている。何もかも灰色に沈む寝室で、汗ばんだ肩が、甘い吐息と共に震えている。
そっと頬に触れると、熱を孕んだ肌が、甘えるように手のひらにすり寄った。逃がすまいとするように、背中へ回された腕が、悟飯の身体を引き寄せる。寝台へついた悟飯の手が、横たわる誰かを閉じ込めていた。
もう一度、と掠れて訴える唇に、悟飯が口付けを与える。啄むような口付けが次第に深いものに変わり、吐息と共に苦しく喘ぐような声も零れる。喉に絡むような響きで、愛おしげに悟飯を呼ぶ者の、蕩けきったまなざしと目が合う……。
慌てて、ピッコロは思考を覗く目を閉じた。次いで、念話も一方的に遮断する。
思わずその場に座り込み、しばらく、顔を上げる気にならなかった。
悟飯の想像の中で組み敷かれていたのは、あれはどう見ても……。
――明日からは、悟飯の言う通り、夜遅くに念話を繋ぐのは止めよう。
動揺を鎮めんと夜空を見上げたが、ちらつく星も湿った夜気も、何一つ心を落ち着かせてくれはしない。鼓動は風の音よりずっと騒がしく、来週、どんな顔で悟飯と会えば良いのかと、頭を抱えずにいられなかった。