忠と暦が墓参りする話そんなに堅苦しくなくていい、そう暦に言った本人は、真夏の太陽が照りつける中でも相変わらずのスーツ姿だった。いつもと違うところといえば、それが礼服であることと、そのネクタイが真っ黒なことだろうか。
暦が父から借りたスーツは、肩幅は少し大きく、丈は少し短かった。墓前で膝をついて手を合わせる忠の背中はいまにもとけていなくなってしまいそうで、まだ目の前にいる、ということを照り返すような日差しの中で再確認する。忠の父親が眠る墓。暦にとっては全くの他人だが、そう言い切ってしまうのも何かが違うような気がした。見よう見まねで墓前に手を合わせると、なんとなく世界に暦と忠だけになってしまったような錯覚に陥った。
「……すまない、付き合わせてしまって」
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