むにゅむにゅ。
もちもち。
……にゅ。
剣だこまみれのごつごつした大きな手が頬を包んで揉んでいる。
許可をしたのは当然こちらだが、一体何がしたいのかさっぱりわからない。
「むぁ」
「ん」
言いたいことがある、と主張すればぴたりと手が止まる。
「なぁ、飽きないのか?」
揉み続けたところで粘土みたいにがらっと形が変わるわけでも無く、同じ頬を延々揉み込んだところで疲れるだけではないか?
抱いていた純粋な不可解を伝えると、大きな手の持ち主は少し視線を下に落して考える素振りをした。
ややあって、再び視線を合わせて言う。
「飽きるか否かについては、全く飽きないな」
「ふぅん?」
「貴方の頬は程よく丸くて柔らかい。肌も滑らかで掌に吸いつくようだ。叶うなら、ずっと触れていたい……とも、思う」
「ほ、ほう?」
予想以上に真正面から向けられた好意にうっかり怯む。
こいつはひとの——主に俺の——扱いが若干雑なくせに、たまにこういう素直な感情を寄越してくることがある。油断した時にそれをされると胸が不用意にときめくので勘弁してほしい。
「……顔が赤いな」
「ばっ、誰のせいだと!」
「私だな」
羞恥と文句で暴れる前に後頭部を抑えられ、流れるようにキスをされた。
何、なんなんだよこいつは。
ずっと触れていたいとか抜かしてたくせに、人の髪紐を勝手に解きやがるし。
深い口づけの名残を切ってすぐそこで揺れる蒼を見つめる。
嗚呼、あれこれずべこべ複雑に考えるのが面倒だ。
「……責任取れよ、ばか」
押し倒してくる男をキッと睨みつける。
その言葉が意外だったのだろう、長い黒髪を垂らす男は薄明りに吐息で笑った。