薄暗がりにぼうと浮かぶは金色の月環。
閃光に煙を引きながら激しい火花を散らす。
やがて決した今夜の勝敗はこちらに軍配が上がった。
肩で息をしながら喉元に突き付けていた切先をゆっくり下げる。壁を背に動きを止め、その様子を見るあちらも張りつめていた緊張を解き、重い煙を深く吐き出した。
「あー畜生負けちまった!」
短くなった煙草を苛立たし気に踏みつぶして喧しく喚く。
しかしその様は怒りよりもどこか清々しさがあり、地団駄はあくまでていに過ぎないのだろう。
「酒の飲みすぎだ。今のお前なら私の仲間でも仕留められる」
何度か掠めた酒気を指摘。
戦う前くらい控えろと暗に注意する。
すると、新しい煙草に火をつけた奴が片眉を上げて半目で言い放った。
「おー何だ? お前さん、俺が自分以外にやられても良いってぇのか?」
まぁ薄情なこって。
呆れたと言わんばかりの声音。
——聞き逃せない。
奴の腕を掴み壁へ強く押し付け、暴れないように両手をしっかり縫い留める。
「なっ」
完全に不意を突かれ、驚愕に見開かれた瞳をぐっと覗き込み、言う。
「忘れるな、お前を殺すのは私だ。私以外に殺されるなど許さない。もし、万が一、そのようなことになれば地獄の果てまで貴様を追いかけ、望み通り完膚なきまで殺し尽くしてやろう。……肝に銘じておけ」
奴の記憶へ刻印するように、確かに宣言する。
今夜の用は終わりだ。
瞳から体を離し、衣の裾に風を含みながら奴に背を向ける。
「はっ」
その場を後にする背に飛んで来たのは侮りを含む笑い声。
「そっくりそのまま返してやんよ! お前を殺すのも俺だぜ。覚えておけ」
死んだら殺す。
不敵に告げるそれは本心だろう。
——なんと熱烈な。
返事無く、振り返ること無く、笠で顔を隠して闇の中へ。
珍しく己が笑っていることに驚きつつも、不思議と悪い気はしなかった。