私は罰せられなければならない。
罪を負い、罰を受けなければならない。
それが私の宿命であり、私が私たり得る業だ。
誰も私を罰しないのであれば、私が私に罰を与えよう。
背中を打ち、肉をえぐり、それでもなお純真な苦痛を与え続けよう。
それが私の贖罪。
私という、鬼の償い。
「ならば、私は貴方を許そう」
はっと顔を上げる。
夜のような黒い長丈に肩へ山吹を垂らしたその人は、じっと私を見据えて言う。
「私が、貴方を許そう」
一言、一言に意味を持たせて、低く、重く。
私を許すと。私を赦すと、そう言うのだ。
————嗚呼——嗚呼、嗚呼、駄目だ。それだけは駄目だ!
貴方が私を許すなど絶対あってはならない!
貴方は私に触れるなど許されざる行いだ!
私のような罪深き一匹に、その澄んだお手で触れるなど。
そんなことをすれば貴方に罪が渡ってしまう。
貴方が穢れてしまう……!
「グレゴール」
興奮と混乱から呼吸も満足にできない私の後ろ頭を優しく撫で、自身の胸へ柔らかく包む。
鞭から飛び散った血や、噛み締めて口から零れた血がべっとりと付くのも構わず、彼は私を抱き寄せる。
「背中の手当をしよう。今日は一段と酷い」
「だけど……!」
「痛みを連続で与えられ、痛覚が鈍った状態で新たな痛みを与えても効果は薄い。一度体から痛みを取り、その後に新たな痛みを与えることで正確に苦痛を得られるはず、だ」
耳元で、脳に染みこませるように、落ち着いた低い声が諭す。
彼の言うことは正しい。
そして、正しいと思わせるくらい説得力を持った方便でしかない。
彼は賢い人だ。真に私を想って、私の傷を治したいと乞うために真実のような嘘を吐く。
……酷い男だ。
その優しさに、息も出来ず溺れてしまいそうなのに。
呻きとも、嗚咽とも分からない醜い声が喉から溢れていく。
感情のるつぼに陥る私を、大きな手が包んでくれた。