煌びやかに、華やかに輝く街路樹たち。
どことなく軽やかな往来は今夜の楽しみに急ぐよう。
厚紙の箱を携えるサラリーマンはきっとだれかのサンタさん。大切な人のために特別を届ける最中だ。
素敵な夜。
いつもの日常が、今日だけは色を変えていく。
そんな中、一人。
待ち合わせ場所に指定した時計塔広場の一角で吹き抜ける寒風に耐えていた。
待ち人は高校卒業と共に婚約した愛しい男。別々の大学へ進んだ彼と所謂クリスマスデートの約束をしたのがすでに久しい。
腕時計を覗き込む。約束した時間にはまだあるとはいえ、特別冷える日に外で待つのはなかなか根性が必要だった。指先はすでに冷え切っていて、手をすり合わせてもすぐに冷たくかじかんでいく。
右から左へ、左から右へと歩く人々をぼんやり眺めて時間を潰そうにも、吹き抜ける風が意識を寒さへと戻してしまう。
そしてその寒さのせいで胸の中がじわじわと切なくなっていく。
どこか近くの店に入ろうか。
しかし、行き違いになっても——。
もう何度目かの問答へ、片手に下げた紙袋が相槌を打つように揺れた。
「グレゴール」
不意に呼ばれた名前にはっと顔を上げた。
こちらに向かってくる黒髪の男に寒さで縮こまっていた心が一瞬で晴れる。
「ムルソー!」
「約束の時間はまだだと思うが……待たせたか」
「あー、いんや、俺もちょっと前に着いたとこ」
到着したのは三十分とちょっと前だが、そんなものは誤差だ誤差。
こっそり胸の中で言い訳をする嘘つきの頬を手袋を外した彼の両手が包む。直接伝わる高い体温がとても心地いい。
「……冷え切っている。どこか屋内で待ってくれても良かったのだが」
「大丈夫だって。このくらいへーき」
添えられた手にすり寄り彼を安心させる。
古傷の多い手だけど、この世で一番俺に優しい手だ。
「あ! そうだ、これ」
「?」
はたと思い出した紙袋を彼へ差し出す。
不思議そうな視線に変に緊張した。
「クリスマスプレゼント。気にいると、いい、ケド……」
この一か月悩み続けたプレゼント。
あれでもないこれでもないと頭を抱えた末に決めたものだけど、今更勝手に湧き出す不安で言葉が尻すぼみになってしまった。
珍しく驚いた顔をする彼を伺い見る。中を確認する様子にさえ心臓が痛い。
「……」
「な、なんか言えよ!」
黙ったまま、白いふわふわを取り出してまじまじと見る。
選んだのは厚手のマフラーだ。普段は手袋はしていてもマフラーはしていなかったはず、と思い選んだのだが……。
彼はふわふわを首へ巻き、無言のままがばりと抱きしめてきた。
「わっ」
「……ありがとう。嬉しい」
「そっそうかよ」
「ああ、とても嬉しい」
耳元で囁かれるかすれた声はこちらの弱点。
こんな場所で妙な記憶を思い出す前に彼をひっぺがし、顔の火照りを無視して睨む。
「ちょっととはいえこの俺を待たせたんだ。今夜はたっぷり甘えるからな!」
覚えておけ!
苦しい宣言して先に歩き出す。
すぐに追ってくる気配を感じてへの字の口を笑みへ。
本当はこれっぽっちも怒っちゃいない。こちらばかり振り回されるのが少し癪だっただけ。
もう追いついて隣を歩くムルソーの腕へ勢いよく抱きついた。
ちらりと見上げる斜め上。
最高の男前に、白いマフラーが良く似合っていた。