よくある昼下がりだった。
今日も今日とて決闘相手を打ちのめし、動画配信の締めも済ませてからこちらにやってくる白い騎士。
背が高く体格にも恵まれ纏う雰囲気もさながら、帽子やマントの金刺繍が明るい陽射しを受け彼そのものを眩く神々しいものに見せていた。
決闘中は少し離れたところから警戒兼見物させてもらうため、タイミングを見計らってこちらから赴くのが良いはずなのだが……向こうから来てくれるならそれはそれで。軽く手を上げて労をねぎらう。
「おつかれさん。今日も良かったぞ」
「そうか」
視線を引きやすい彼と一旦ひとけの少ない路地へ入り、周囲を確認してから帽子を取る。
少し暑そうに髪をかきあげ、小さくため息。
「疲れたか?」
「いえ、問題ありません」
彼にしては珍しいと思いつつ聞くも、いつもの調子で返された。
まぁ、確かに今日はこの時期らしく陽射しが強めで、少し走ったくらいでも汗ばむだろう。
訓練をしているとはいえあれだけ見事な高速の剣技を繰り出せば体温も上がって当然。
かき上げる指の間から髪がこぼれる。
普段はきちんと撫でつけてある横の方はほんのり汗を吸って束で垂れ下がる。
「……、グレゴール?」
聴こえるのはムルソーの不思議そうな声。
はっと気が付けば、垂れた髪を彼の耳に掛けようと手を伸ばしていた。
既に義手の指先が耳に触れてしまっている。
「あっ、あぁ、えっと、勝手に触って悪かったな!」
慌てて手を引っ込め謝罪する。恋人とはいえ不用意に触れられるのは流石に気にするだろうと。
しかしムルソーは数拍の後、急に抱きしめキスをして来た。
今度はこちらが驚く番。
視界が陰ったのは彼のマントが顔のそばを覆ったから。
「……触れるのは、構わない。ただし、それは帰宅してからにしてもらいたい」
よろしいか、と。
至近距離のハンサムがそっと囁く。
影から解放された俺は一瞬でのぼせ上り、ふわふわと浮いたような意識の中。
間抜けな返事だけ、返すことができたのだった。