梅茶(@sobabasu)さんの⑤②ムルグレからカッとなって書きました。
今は反芻しています。
天気の良い日だった。
爽やかな午後の風が吹き、空気もどこか透明で。
だから、だろうか。
これから決闘に赴く男の横顔を見た瞬間、俺の世界が止まった。
精悍な顔立ちに相変わらずの仏頂面。
目元までの前髪はさらさらと風に梳かれ、合間に深い緑色の瞳が伺える。
じっと、静かに前だけを見据える瞳。
灯る意志を秘める色。
夏の木陰に似たその色から、俺は目が離せなくなってしまった。
全ての音が遠い。
世界が切り取られ、俺の中に彼しかいなくなる。
……綺麗、だな。
「グレゴール?」
ふと、視線に気づいたムルソーがこちらを向いた。
深緑に真正面から見つめられて心臓が飛び跳ねる。
「なっ、ななななんだ⁉」
「先ほどからこちらを見ているが、何か付いているだろうか」
明らかに挙動不審な俺に対して彼はいつも通りの様子。
てっきりヨコシマな思いに気付かれたかと焦ったが、どうやら俺の秘密は守られたらしい。
こんなおっさんに『綺麗』だと思われても困るだろうから。
何も無いと応えて苦笑する。ひとまずの安堵から気持ちがいくらか落ち着いた。
「おっと、そろそろ時間か」
「ああ。……グレゴール」
「んぁ?」
待機していたベンチから一緒に立ち上がり、呼ばれて振り向けば先ほどと同じ深緑の瞳と目が合う。
そしておもむろに生身の手を取られ、唇を、甲、へ。
「……私を見つめるのは構わない。だが、出来れば声を掛けて欲しい。想う相手を見つめたいのは、貴方だけではないのだから」
深緑の奥に宿るは濡れた熱。
衝撃で動けない俺に勝利を誓い、白い騎士は決闘相手の元へ向かった。
「バレ……っ」
気付かれていた。
俺の下心も。
頭の天辺まで血が一気に沸騰したように熱くうずくまりたくなった。護衛任務中だからできないのだが。
俺は出来るだけ顔を隠そう、誤魔化そうと煙草を咥えるフリで口元を覆う。
嗚呼これは夜が面倒なことになったと、己の迂闊さを棚に上げて八つ当たりのようにため息を付くしか、今はできなかった。