キス、を、してみた。
自分から、彼に。
「……」
普段あまりしないこちらからのキスに、しかし、彼の反応は薄く。
結果はただ唖然と見返すだけだった。
切れ長の目が少し見開いたくらいか? いつも通り、やや上からじっと見降ろしている。
無言の視線。
段々居心地が悪くなって、もう笑うしかできない。
「は、はは、悪いな、驚かして……」
こんなおっさんからの不意打ちなんて普通はいらないよな、いっそ気持ち悪いよなと。
ネガティブ方向に思考が転がり落ちて行く。
「えっと、ほら、たまにはってやつ。な? あーそれよりこの間の決闘試合良かったぞ! 昨日動画を見たんだが、やっぱりお前さんは強いなぁ。あんな相手を一瞬で伸しちまうんだから。動きもスローにしたって」
「グレゴール」
作った笑顔と身振り手振りで失態を有耶無耶にしようとしたら名前を呼ばれ、そのまま抱きしめられてしまった。
何だ、何だ、何事か。
「む、ムルソー⁉」
「……貴方はどこまで…………」
ぎゅう、と大きな体に包まれる。
とても驚いたものの熱の籠った吐息を感じ、諦めて素直に抱きしめ返すことにした。
よくわからないが……何かが彼に刺さったのだろう。
頑張ってキスした成果かなのか。
「私からキスしても?」
向かい合い、密かに囁くハンサムに小さく笑う。
そんなこと今更聞くな。
俺はいつだってお前のキスを待ってるんだから。