「頭目さん」
女の手が胸を押す。
剣だこが居座る手の平、傷痕まみれの指先が肌を這い、肩にかかり、腕の方へ。
仰向けの胸元に寄せられた額の丸みを感じていると、ため息のような吐息が当たった。
「あったかぁい」
悦に浸る声は締まりが無く。
その代わり安堵の色が濃かった。
温かいもなにも……お互いにシャワーを浴びたばかりで、滾る熱すら残ったままだというのに。
珍しく、ただただ甘えたいだけなのか。
それとも。
ひとの体にのしかかり、豊満な胸や尻の重さを感じさせながらも、情や欲を感じさせない女が不思議でならなかった。
体では無く、別の……そう、例えばもっと、精神的なものを求めているようで。
「んへ、とーもくさん」
「……ムルソー、と」
「いいのか?」
「お前が呼びたければ、呼ぶと良い」
どうも女の透明な願望に当てられたらしい。
名を許せば意外そうに顔を上げ、こちらの目をじっと見てから、桜色の唇が動いた。
「ムルソーさん」
鼓膜を揺らす、心地の良い声。
自然と、親指が火照りを残す薄い肌をなぞる。
「もう一度」
もう一度、否、何度でも。
その声で。
「ムルソー、さん」
高まる熱に従い、己の名を結んだばかりの唇を求めた。
それに応えて体を伸ばし、生身の指が髪の撫でたのを合図に体勢を反転させ華奢な体に覆い被さる。
「……、っふ、情熱的だな?」
「気に入らないか」
「んや、ぜーんぜん。お礼に、俺もたっくさん名前呼んでやっから」
にやにやと腑抜けに笑い、しなやかな足が腿をさする。
匂い立つ色香に理性を手繰り寄せ、ただ、応えた。
「お前が呼びたければ、いくらでも」