静寂な空気が流れている。
白い教会。
密かな聖堂はところどころに群青の装飾が施され、神秘的な雰囲気に優しさを漂わせる。
まるでそれに合わせたかのような白いタキシードを纏い、蒼いヴァージンロードを進んだ。
先の祭壇前には同じような白い装束に身を包む背の高いシルエット。いつもより装飾が少ないはずなのに、とても眩しく、きらきらして見える。
これから俺は、この男と結婚する。
参列者は一人もいない。
いるのは穏やかな顔の神父様と、配信用のカメラだけ。
祭壇へ向かう足音がやけに大きく聴こえる。
一歩一歩が心音を大きくさせていく。
そしてついに、彼の隣へ。
「……綺麗だ」
「ん」
不意に囁かれた言葉に照れてしまう。歯の浮くようなことなんて今までも言われて来たのに、一向に慣れそうにない。
恐らく、この先も。
紡がれる誓いの言葉は歌のよう。
俺たちはこれからの多くを二人で分かち合い、二人で支え合うことを誓った。
指にはめられる白金は白い光を受けて美しく輝き、同じ輝きを分かち合う彼もほのかに嬉しそうだ。
これから彼と……ムルソーと生きていく。
そのための、光。
「それでは、誓いのキスを」
改めて、頭一つ高い彼を見上げる。
視線が交わり、腰を抱かれる。
吸い込まれそうな深緑。
俺だけの、夏の木陰。
こちらからも頬に手を添えて。
そして誓いを立てた。
お互いにいつ死ぬか分からない。
明日、誰かを護って破られるかも知れない。
明日、決闘に敗れ命を落とすかも知れない。
いつ失うか分からない命。
いつ奪われるか分からない命。
だけど……だから。
だから、共に生きることを選んだ。
だから、隣にいたいと思った。
彼が俺を追いかけたように、俺も彼の隣に居よう。
それが、俺の覚悟だ。
「……ぁは」
幸せだな、と、自然に溢した。
ああ、とだけ返って来た。
それでいい。それがいい。
白い光の中には、それだけで充分だ。