暗がりに蒼い瞳がゆらりと光る。
この冷たい輝きが俺だけを映している。
何もかもに達観し、悟り、卓越した剣技と意志で道を切り開く男が、俺だけを見ている。
……嗚呼、嗚呼!
なんて途方も無い愉悦だろう!
大局でもない。
同胞でも、彼のしがらみでも無い。
紛れもなくこの俺を!
漏れる甘い吐息は褒美として与えよう。
唇で耳をなぞり、一層深く求めよう。
むかつくくらい長く真っ直ぐな髪を撫でつけ、男の香りを肺いっぱいに吸いこんで。
この男の今を独占してしまおう!
「頭目さぁん」
古傷の多い広い背中に真新しいひっかき傷をつける。これも、まさに『今』だ。
唇を重ねて、舌を絡ませて、意識の輪郭をぼかしながら彼の『今』を奪う。奪い尽くす。
『今』だけは、この男を俺のものにする。
蒼と碧の瞳に射貫かれる心臓が爆発しそうだ。
この男になら散らされてもいい。この男だけは俺が散らしたい。
俺の最後が彼で、彼の最後が俺にしたい。
否! そうでなければならない!
そうでなければ面白くないだろう?
熱い吐息が首筋を撫でる度に脳天で多幸感が弾け、目の前が明滅を繰り返す。
自分がどう鳴いて、何を口走っているのかもよくわからない。
知らない、知らない。
心底どうでもいい。
この『今』だけは俺のもの。
『前』のことなど知らない。
『後』のことは知らなくていい。
今……そう、『今』は俺と彼の二人きり。
朝焼け前に柳で憂いたとしても『今』があれば悲しくない。
この男は俺のものだ。
俺の獲物だ。
俺が惚れた男だ。
誰にも渡さない。
『今』だけは、俺だけのものだ。