酒を煽る。
煽った後に、もう一杯。
「……もうよせ」
「あ」
更に次を注いでいると、杯を持った手ごと掴まれ上の方へ連れて行かれた。
頭上にある男の口へ酒が消える。
その様子を見ていると普段通りの険しい目に見降ろされる。
「なんだ、飲みたかったのかぁ? なら言えよなー」
胡坐を座椅子にされる男はケラケラ笑うも黙ったまま。
やがて、おもむろにくつろげたままの襟元を広げて肩に噛みついてきた。
「いぃっ⁉」
心地良いほろ酔いが痛みで吹き飛んだ。
反射で裏拳が飛ぶもさっと防がれ、身をよじることもできず痛みに耐えるしかない。
本当に何なんだ一体!
強制的に醒めた頭で考えるも唐突すぎてわけがわからない。
男は墨肌をぎりぎりと噛み、歯形がしっかりと残ったところで満足したらしく口を離す。
墨のおかげで出血こそしていないが、狂暴な歯形は痛々しく刻まれていた。
「な、んなんだ一体! いってぇな‼」
理不尽な痛みによる怒りに任せて睨みつける。
しかし男は静かに見降ろし、再び頭を下げて歯形を舐めた。まるで獣が傷を労わるように。
「……本当に何がしてぇんだよてめぇは」
彼の不可解な行動は今に始まったことではない。
こうして二人で過ごす中で、この男がなかなかに自由で横暴なことを学んだ。
それでも、だとしても、いきなり噛みつかれたら痛いし驚くというもの。
「はぁ……何だ? 酒ばっかりに構わずワタシにも構え~ってか?」
ひとの肩をべろべろ舐める大男をからかう。もう嫌味のひとつでも言わなければやってられない。
果たして男は顔を上げ、こちらの顎を掴み視線を奪う。
瞳の蒼を見て背中が冷えた。
「…………まじ?」
意外過ぎる。
予想外過ぎる。
あの頭目さんが、こんな子供っぽく主張してくる、なんて。
相変わらずむっすり仏頂面の男へ湧き出る感情のまま何か言う前に唇をふさがれる。
あいた手で無遠慮に胸を揉みしだかれ、腰に擦り付けられるものの感覚に神経が甘く痺れていく。
器用で不器用な男が可愛くてたまらない。
「は……かーぁい」
「……うるさい」
短い文句を今度はこちらから塞いでやる。
可愛い可愛い男。
俺の頭目さん。
たんと構ってやるから、たんと甘えてくれ。