そっと、頬を撫でてみる。
……少しやつれたか。
俺を膝に抱いて腰に手を添えて、胸元に頭を預けて瞼を降ろす男。
じっと動かず、黙ったままの体勢は彼が疲れた時によくやるものだ。
最初こそ重いとか、なんとなく気恥ずかしいとか言って逃げようとしていたのに、今や当たり前のように好きにさせていた。大きな手がよこしまな動きをしない限り、こうして大人しく抱き枕を全うする。
胸元の頭を髪が乱れない程度に撫でる。
すれば一層胸元に顔を押し付け、ほっと溜息を吐いていた。
「疲れたよな」
「……」
無言はすなわち肯定。
小さく笑い、つむじから後ろへ艶やかな黒髪を撫でつける。
「お疲れ様。配信、頑張ってたもんな。朝練だって欠かしてないんだろ? しかも、この間なんて飛び入り決闘まであって……よく頑張ったな。えらい。えらい」
画面に映らない彼を知っている。
彼の努力を、覚悟を、誰よりも知っているつもりだ。
だから裏表無く疲れた彼を癒したい。
そう願いながら胸元の頭を撫でてあやす。
自分より圧倒的に大きく実力もある大人の男が、今だけは記憶の中の小さな男の子に見えた。
これもきっと俺だけに見せる彼の姿なのだろう。
そうだったら良い。
「……グレゴール」
「ん?」
「もう少し、このまま……」
静かな申し出。
声に緊張は無く、体も、腰を抱く手もやんわりと力が抜ける。
「もちろん。お前さんが満足するまで、いくらでも付き合ってやるよ」
俺で良ければ、いくらでも。
強くてかっこよくて可愛い年下の恋人を抱きしめて好きなように甘やかす。
この時間が、俺も、好きだ。