ソファでツヴァイヘンダーを手入れ中、不意に後ろから抱きしめられた。
そのまま当然のように首筋へ顔が埋められる。
少し驚きこそしたがすっかり慣れたもので、形ばかりの苦笑をしつつ愛剣を置いて肩の頭を撫でてやった。
「ん? どうした?」
「……? 甘い匂いがしますね」
「お、分かるか」
頭を撫でられながらムルソーが顔を上げる。
耳のすぐ後ろを嗅がれ、流石にくすぐったくて肩が震える。
「同僚の女の子から香水貰ったんだよ。桃の匂いだろ? リラックス効果があるんだとさ」
甘ったる過ぎず嫌味も無く、ふんわりと香る優しい匂いはリピートしてもいいかと思うほど。普段から煙草臭いだのおっさん臭いだの散々言われているから、煙草が駄目なお客さんの時くらいに使うのもありだろう。
すんすんと嗅がれながらそう思っていると、再び頭が肩へ。
「なるほど。確かに安心します」
「だろー?」
ええ、と応えながらソファの前に回り込み、流れるように押し倒して来る大男。
疑問に思う間も無く愛剣はそっと傍らに。鮮やかな手際で天井を見せられる。
「んえ?」
「もっと嗅がせて貰えますか?」
そう言って今度は覆いかぶさるように首筋へ顔を埋める。
体が一層密着して、背も体格も勝る相手になすがまま。
我ながら呆れるほど無抵抗すぎると思うが、仕方ない。これも惚れた弱みだろう。
本当に香りを堪能したいだけかもしれないし、まあ……よこしまな手が動かない限りは好きにさせようか。
「って、こら」
「む」