「……っは」
おぼれる。
呼吸が乱される。
酸素が欲しい。
煙草漬けの肺が悲鳴を上げている。
あ、足……が……。
「っグレゴール」
「あ……ぇ……?」
焦った声と共にぐっと背中を抱えられ、そこで自分が倒れかけたのだと知った。
ふわふわとした意識の中。響く強い声が辛うじて現実に引き留め、すぐそこの深緑には心配が滲んでいる。
ああこれは悪いことをしたと、申し訳なく、思った。
「あ、ああ、悪い……ぼーっとしてた」
キスに夢中になりすぎて酸欠になった、なんて。
年甲斐も無く情けなくて適当な言い訳をした。
本当、いい年して。しかも彼より年上なのに、初心な青少年みたいに不器用だと思われただろう。
いくら余裕ぶったってずっと必死なんだ。
いつも、お前を繋ぎ止めるにはどうすればいいか、お前に飽きられないようにするにはって考えてる。
なりふり構わず考えてる。
「……」
見つめていた深緑が顔の横を過ぎて体が密着する。キスよりも深く繋がるように。
「貴方が好きです」
「お、おう」
「だから、そんな顔をしないでほしい」
そんな顔、とは。
問う前に低い声が耳を撫でる。
寂しがらせてすみません、と。
そのささやかな言葉がすとんと胸に落ちる。
……ああそうか。俺、寂しかったんだ。
言われてやっと気が付いた。
画面越しでも通話越しでも埋められない寂しさのせいで前のめりになってたんだ。
必死と無理は違う。根本的なことに気付けた感謝と、それに気付かれた恥ずかしさから逞しい肩に顔を埋める。
多分、今、一番見られたらだめな顔してる。
「……ムルソ~」
「はい」
情けなく呼びかけておいて次の言葉は考えていない。
ただ額を押し付けて、燻る寂しさを消すように彼の体温を感じていた。