もふもふと恋には抗えない「俺、犬になっちゃった」
「イヌ……?」
夜の帳が下りた頃に、戸を叩いた青年が言った。いつもの制服にローブを被り――見目からするとただ布を引っ掛けたという方が正しい――その布の下で、何かがぴこぴこ揺れている。視線を少し下にずらせば、最早隠してもいない尻尾が目に留まった。
「耳と尻尾も生えたんだよね」
「何が……いや、いい。公子殿のことだ、どこかの秘境で暴れたのだろう」
「あは、正解。先生なら解決策を知ってるかなってさ」
ひとまず室内に入るよう促すと、お邪魔しまーすと間延びした声の合間にぽふぽふと音がした。それがどこかおかしくも愛おしく、笑ってしまわないように一呼吸おいて、そのような効果のある秘境は存じていない、と言った。
1120