Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Comehappy2525

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 33

    Comehappy2525

    ☆quiet follow

    マチアプをして、通報される藤哉さまの話です。
    カプなし。

    マチアプってむずかしい「マッチングアプリを始めてみたんだが」
    「は、はい?!マッチングアプリ??」
    「誰からもいいねが来なくて」
    「い、いいねが……!」
    「そうなんだ、何故だろう」

    俺は鳴海召炳。可愛い妹の為、高給に惹かれて祕術師に就職したらとんでもない地獄を見た男です、よろしく〜!お好み焼きをひっくり返すのが上手です。

    就業後、上司の藤哉さんとコーヒーを飲んでいたらマチアプ登録の話を聞かされ、危うくコーヒーを口からぶちまけるところだった。藤哉さんは、割と堅い家の出で、よくわからないけど確か出自が複雑?だったはず。御曹司がマチアプ登録とかしていいんやろか。コーヒーをごくりと飲み込み、藤哉さんの顔を伺うと、そんなに深刻に悩んでいる風でもなく、スマホを操作して俺に画面を見せてきた。

    「…んん?これ、藤哉さんです?」
    「そうだ。インカメで自分で撮った」

    大手マチアプのプロフィール画面に表示されている藤哉さんの顔写真は、ブレてる上に半目で画面も暗く、売れてないお笑い芸人みたいなどんよりとした暗く重いオーラが漂っていた。こ、これはアカン。藤哉さんの良さが1mmも伝わらない自撮り写真に慄くと、当の本人は首を傾げた。

    「やはり素直に祕術師と書いたのがダメだったかな。他にも祕術師と書いてる人は居たからいいかと思ったんだが」

    プロフィール写真のダメさには触れず、職業欄の書き方に悩む藤哉さんに、尾坂魂が燃え盛る。猛烈に今、ツッコミを入れたい。脳裏に可愛らしい澄玲ちゃんの笑顔が過り、慌てて首を振る。藤哉さんにツッコミなんか入れてるとこ雪さんに見られたら、物理的に俺の首が飛ぶかも。澄玲ちゃんを守る為にも、ここは我慢…!

    「いや、プロフィール写真が原因じゃないです?藤哉さん、よかったら俺撮りましょうか?」
    「そうかな?鳴海がいいならお願いしたいな」

    明るい場所で、少し角度をつけて写真を撮る。うん、男前。藤哉さんは俺から見ても俳優さんみたいにかっこいい顔をしてるのに、本人にあまり自覚はないみたいだ。まあ雪さんみたいな異様に顔が良い従者が側に控えてたら、ビジュへの認識がバグるのはなんとなくわかる気もする。以前会った、詠さんという藤哉さんの従弟も、また別タイプのイケメンさんやったし。ちょいちょいと加工アプリを使い、更に見栄えを良くする。

    「はい!これでどうでしょう」
    「!?す、すごいな…こんなに変わるものか」

    澄玲ちゃんにスマホで写真撮る時のコツと加工について死ぬほど叩き込まれた俺はにっこりと笑った。藤哉さんは珍しくポカンと口を開け、鳴海ありがとう…と困惑しながら言った。

    「あっ、いいねがついた」
    「よかったですね、藤哉さん」
    「うん」

    藤哉さんはスマホを見て少しだけ微笑むと、カチリと画面を落として俺に晩飯を奢ると言ってくれた。二人して支院内の食堂に向かうと、偶々近くのテーブルに、同僚の的場さんがいた。

    「的場、よかったら一緒に食べないか?鳴海、良いかな?」
    「もちろん!的場さーん、一緒に食べましょ〜」
    「…お邪魔じゃなければ、是非」

    この食堂には2種類のメニューしかない。やたらと揚げ物の多いA定食か、魚と味噌汁、ほうれん草のお浸しのあっさりB定食か。藤哉さんと的場さんはB定食を選び、俺はA定食を選んだ。全く愛想のない食堂のおばちゃんがドン!とトレイを置く。何故か藤哉さんには普通にトレイを出していた。うわ…あからさまな差別だ。

    空いている席に座り、仕事の話をしながら定食を食べる。藤哉さんは美しい所作で、マズいと評判のB定食を口に運んでいる。的場さんは少し緊張した面持ちで箸を動かしていた。藤哉さんが眉を顰める。やっぱマズかったんかな?B定食。

    「…なんだかさっきからスマホの通知がすごいな。ポケットの中で永久に振動している」
    「? 仕事の呼び出しですか」
    「いや、私用のスマホだ。なんだろう」

    藤哉さんは失礼、と俺と的場さんに断りスマホをポケットから取り出した。家からの用事じゃないといいんだが…と陰鬱な顔で画面を見た藤哉さんは、すぐに俺の顔を見た。

    「…マッチングアプリの通知だ。驚きだな」
    「え?マ、マチアプ…ですか…?」
    「よかったじゃないですか。藤哉さんの良さが伝わったんですよ〜」

    的場さんに、藤哉さんのマチアプ騒動を伝えるとなるほどと頷いてくれた。的場さんは暫く迷っていたが、藤哉さんに質問を投げかけてきた。

    「あの、小隊長殿は…その、宗家の方でしたよね?差し出がましい事かもしれませんが、その、家同士の見合い話などもあるのでは…」
    「ああ、いや。家での私の立場は微妙でね。恥ずかしながら見合い話などは無いんだ。しがらみも色々あってね」
    「そうなのですね。不躾な質問失礼しました」
    「いや、構わないよ。まぁこの件は黙っていてくれたら嬉しいな」
    「勿論です。口外はしません!」
    「…てか藤哉さん、このこと雪さんは知ってるんです?」
    「いや、知らない。鳴海も黙っているように」

    雪さんの名前を出した瞬間、藤哉さんは全てを諦めたような春風のような笑顔でそう言った。的場さんが首を傾げているので補足する。

    「雪さん…帯刀術師は、藤哉さんのこととなると…すごいんで…」
    「雪晴の耳に入った瞬間、私の自室に見合いの釣書を山ほど持ってくるだろうな。それは避けたい」
    「な、なるほど…?」

    的場さんは安っぽいプラスチックのコップに入った水を飲み干し、こう言った。

    「小隊長殿は、ご自身の力でお付き合いをされたいのですね」
    「ん、ああ…そうなる、のかな?」

    藤哉さんは虚を突かれた顔でそう答えた。俺は脂っこい唐揚げを齧りながら二人のやり取りを聞いていた。俺は藤哉さんと同じ学年らしいんだけど、祕術界での経験が浅くいまいち家や見合いがどうとかの話はピンとこない。もし俺が通っていた大学に、藤哉さんみたいな人が居たら盛大にモテていただろう。格好良くて頭も切れて、たまにすごい物言いをする事もあるけど、実力があって部下思いで頼れる人だ。

    「素敵な人が見つかるといいですね」
    「うん、そうだね」
    「応援してます」

    的場さんと別れ、自室へと歩く。なんとなく、ぼうっとした顔付きをしている藤哉さんに、またこの人徹夜したんかな〜…と心配になる。藤哉さん曰く、80時間は覚醒して仕事を続けられるとのことだが、たまに誰も見てないと思っている時、すんごい眠そうな顔をしている。そういう時は雪さんも少しピリピリしているので出来ればやめて欲しい。体にも良くないし。ふと、大学に居た時の自分を思い出す。同じ専攻を持つ仲間と、眠い目を擦りながら書いたレポート、バイト帰りに皆で流れ星を見たこと。今は総てが遠く懐かしい。友達は元気だろうか?碌に連絡もせず、ここに来てしまった。少しだけ感傷に浸っていると、藤哉さんが足を止めてこう言った。

    「…実際、相手が見つからなくてもいいんだ」
    「えっ!?マ、マチアプの話ですか…?」
    「うん。正直私のような人間を好いて、一緒にいてくれる人が居るとも思えないしな。だが…」

    藤哉さんはちょっとだけ困ったような顔をして、こちらを見た。意味がわからず首を傾げると、藤哉さんは少し考えて、はっきりとこう言った。

    「お前を見ていると…希望が無くても、やりたい事を諦めなくてもいい気がしてきてね」
    「えっ、なにそれ。どういう意味です?!」
    「さあな。自分で考えてみるといい」

    俺は今も偶に星を見る。夜中の出動時、仕事が終わり車に乗り込む時。ふと夜空を見上げると、あの頃と同じように星が輝いていた。藤哉さんと雪さんに星の見かたについて雑談がてら教えたこともある。ありゃ、バレてたのか。

    藤哉さんは、フッと格好良く笑うと、おやすみと手を振り、自室へ歩いていった。一時間ほど前まで、いいねが0だった人とは思えない。遠くなる背中を見送り、自分もまた自室へと踵を返す。

    歩きながら思う。誰かと寄り添いながら生きてみたくて、でもそれが叶わなくてもいいというのはどういう気持ちなんだろう。的場さんが藤哉さんへの応援を口にした時、少しだけ切なく眩しいようなものを見る目をしたのは何故だろう。俺にはわからないことが多い。それは祕術と関わりなく生きてきた、別の年月の積み重ねがあるからだ。

    実の父の顔は記憶にないけれど、再婚した母の嬉しそうな顔、澄玲ちゃんが産まれた時、オヤジさんが涙したこと、自分で進路を決めて猛勉強したこと。好きなゲームを家族でして、頬が筋肉痛になるくらい笑ったこと。全部、全部覚えている。

    ここには家族の話を口にする時、翳りを帯びた顔をする人たちが少なからず居る。そういう場所だと藤哉さんから聞いた。幸い、まだ不幸な現場に立ち会ったことはないけれど、それもそう遠くない未来に経験するであろうことも、なんとなく理解している。

    自室の扉を開けて、電気を点ける。すぐに布団に寝転べるような狭く古臭い部屋。ああ、藤哉さんに趣味の欄、ちゃんと書いた方がいいですよって言ってあげればよかった。同学年の俺が、友達とゲームで遊んでいた時、あの人はどういう風に生きていたんだろう?

    歯磨きをして、布団に入り、目を瞑る。直ぐに泥のような疲労が押し寄せ、意識が遠くなる。誰か一人でもいいから、あの不器用な人に優しくしてくれていたらいいな。そう願い、願ったことすら忘れてしまうような深い眠りに落ちていく。明日もまた、仕事だ。


    (おまけ)
    毎日毎日会社と家の往復。仲のいい女友達は次々と結婚し、口を揃えて「結婚はいいよ〜!」と気軽に私のお尻をせっついてくる。親からは何も言われないけど、チラチラと不安そうな目を向けられて居心地が悪い。マチアプでも始めてみるか、と登録したはいいものの、ビジュも普通、年収も普通、実家住みで家事スキルなしのアラサーOLの私はマッチングしてデートまで漕ぎ着けても2回目にはいけずさようなら。日々自尊心を擦り減らしていた。今日も惰性でマチアプを開く。すいすいと画面に映るプロフィールをスワイプしていく。趣味のチャットから攻めてった方がいいのかな、打率。もう全部どうでもよくって、適当にタップしていたら、自分がいいねを押した相手から、いいねが返ってきているのに気付いた。

    「は?た、龍守…???」

    切れ長の金の瞳に、スッと通った鼻筋。黒髪を短く刈り上げていて清潔感がある。間違いなくイケメンなのに、何かが引っかかる。どこかで見覚えがある?俳優?シンガー?有名インフルエンサー?どれも心当たりがなく、プロフィール欄を見てみると『龍守』と記載があった。龍守藤哉さん。25歳。へぇ〜祕術師なんだ、年収かなりいい!すごーい♡♡

    「……って、んな訳あるかい!!!!」

    龍守って宗主じゃん!?東仙境に住んでる祕術師関連の家なら大体その名を知っている。てかなんなら弊社で祠部省から受注されてる導具も一部取り扱ってるので、龍守と聞くと反射的にビビってしまう。確か、祠部省の第三なんとかに若君が居た筈。そ、そいつを騙るとか肝の据わり方がエグいよぉ。お、お、面白すぎる〜〜………!!!

    プロフを確認すると、SNSの類はしてないようだった。うーん、怪しい。イソスタのアカウント持ってない25歳とかいる?絶対釣り、ニセモン。通報しとこ。ついでにスクショを友達に送る。草を模したスタンプが秒で返ってくる。だよね〜?

    龍守の若君がマチアプとかする訳ないんだよなぁ。よくわかんないけど、高貴な家のお姫様と、鮑の美味い高級料亭で高尚なお見合いとかしてんだろ。「ご趣味は?」「お茶とお花を少々…」みたいな。は?こっちはホテルのアフティーが精一杯なんですけど。思い出したら虚しくなってきて、他にネタはないかとニセモノの若君のプロフを読んでみる。所々空欄があって、怪しさがすごいな。なんで趣味の欄に「仕事」って書いてあるんだよ。若君、仕事すんのか??私の想像する若君は、儀式とか外交以外悠々自適なイメージがあるんだけど、このニセモノくんは勤労設定なんだな。お疲れ様でぇーす!今日は金曜だから、ニセ若君も一杯やってんだろうか。私もビール開けちゃお。

    改めて写真を見て、龍守藤哉でネット検索すると顔写真が出てきた。うーん、似てる。着てる服も祠部省の制服?っぽい。たまに来る導具廠の人もこんな感じのシャツ着てるしな。きっとどっかの拾い画だろう。龍守…藤哉さん?も自分のニセモノがマチアプしてるなんて知ったらすっごい怒るだろう。なりすましかぁ。有名人って大変だ。顔だけならすっごいタイプなんだけどなぁ。冷たそうな感じもするけど、整っててちょっとだけ怖い気配のする顔。誰も口に出して言わないけど、宗家の方々の顔ってかなり特徴的だ。目が、龍みたい。いや、私は龍なんて見たことないけど。

    なんだか面白くなっちゃって、スマホを投げてベッドに寝転ぶ。ニセ若君が本当に居たら、どんな感じなんだろう?祠部省で一生懸命働いている、仕事が趣味のイケメン若君。きっと自分にも他人にも厳しくて、でも恋人には甘えたりするのかな?婚活で暗く落ち込んでた気持ちがどこかへ消えていってしまった。アプリを落とし、Bluetoothイヤフォンをして、お気に入りの曲を流す。もうすぐ試験があるから、資格の勉強しなきゃなんだけど、もう体が動かない。若君も今頃ビール飲んで寝てるかな?想像するとなんか面白い。ふっと笑って、勉強は明日に回すことにする。お疲れ、私。おやすみなさい。



    藤哉さま「つ、通報されて凍結されてる…」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭💖👏💴💴💴💴💴💴💴😂😂👏👏😭😭😭😭😭😭😂😂😂😂😂
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works