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    文子さん女装実習で文仙のつもりが仙文ぽくなった

    文子さん女装の課題があった
    6年生ともなると様々な職種、身分の変装をするものだが、女装となると何故か勝手がいかず補習を受けることなる
    文次郎、小平太、長次は通算10回目の追試を受ける事となった

    「何故こんなに完璧な私の女装で合格が出んのだ」

    七松小平太は真っ赤な口紅を唇に塗りたくりながら喋っていたので、逸れてしまい唇からはみ出た紅は明後日の方向へ線を描いた

    「もそ」

    長次はおちょぼ口めいて小さく口紅を唇に当てツンツンと少しずつ色をつけてみる

    「何をしている長次何?薄化粧に挑戦?やめておけやめておけ!こういうのは濃いのに限るのだ!私に貸してみろ!そりゃー!あ!すまん長次!紅がはみ出てしまった!」

    「ヒヒヒヒヒ!!!」

    「怒るなよ!細かい事は気にするな」

    「じゃかましいいい!!!さっきからなぁにをじゃれとる!」

    文次郎が頬に白粉を塗りたくりながら怒鳴った

    「お前等!10回も試験におちておきながらなんだ!遊びじゃないんだぞ!一流の忍者を目指すものとして恥ずかしくないのか!?10回だぞ!?10回も落ちてるんだぞ!?」

    「文次郎だって落ちているではないか」

    「もそ」

    文次郎は顔が強張りぐっと歯を食いしばると

    「……鍛錬が足りんのだ」

    「なに」

    「もそ」

    文次郎は突如化粧台の上に足を乗せると勢い込んで

    「とにかく!鍛錬が足りんのだ!女のする化粧は我々にとって馴染みがない故に!こんなにも試験に落ちるのだ!鍛錬あるのみ!ひたすら女装だ!」

    「しかしこれ以上どう美しくなればいいのだ」

    「もそ」

    「そこなのだ俺にもさっぱり…」

    3人は腕をくんで考え込んだ。
    正直何が駄目なのか全く分からないのだ
    流石に10回も繰り返し女装していると最初は不慣れだったメイクも手慣れたものになり、長次などは高速3分で終わらせるテクを身に着けた

    何度確認してもメイクはこれ以上なく完璧な仕上がりであるし、元の長髪を活かした髪型も女らしく下ろし、着物の着こなしも抜群である

    一体何が駄目なのか
    三人が首をひねって考えていると

    「ナーハハハハ!!!お前達まだ女装の課題が終わっていないのか!?無様だなぁ文次ー!!!!」

    留三郎が仁王立ちして襖を蹴飛ばして入ってきた

    女装といえど十五歳の神聖な女の子の着替えは男に見られるわけにはいかないので小平太と長次の部屋で執り行われていたのだが、
    突然入ってきた男に3人は腕をまくりあげて威嚇した

    「何だとテメェ馬鹿留が!!!9回目の実習で合格したお前が何のようだ!」

    「ふん!この期に及んでまだ女装実習を受けようというお前達を笑いに来たのだ!!自分の顔を鏡で見ろ!どこからどう見てもアホ文次だろうが!」

    「黙れ馬鹿留!!お前なんぞ実習のときにたまたま木下先生が突然くしゃみと涙が止まらなくなって目がおかしくなってる時に見たお前の女装に合格を出したのだから、完全に運だろうが!!」

    「運も実力の内ってなぁ!」

    「こいつ!!!こてんぱんにしてやろうか!?」

    「やってやろうか!」

    一触即発の空気が走り二人が額をくっつけて火花を散らす中、長次が手を前へ突き出し止まれのポーズをとる
    「もそ」

    「やめろーそんなことよりどうやったら合格するか考えてみろって長次が言ってる」

    小平太は6年間長次と同室であることもあり、小声すぎて聞き取る事が困難の長次の台詞を何を伝えたいか一言一句理解できるのであった

    「ふん!!そうだ馬鹿留三郎の相手をしている暇はない!」

    「ああそうだ!俺も用具委員の仕事がある!女装もろくにできん落第生共に用はない!ブァーハハハハハ!!!!」

    大声で本当に楽しそうに笑いながら留三郎は開けた襖を再び普通に手で閉めて去っていった

    文次郎は悔しさのあまり化粧をした顔を歪め血管を浮かばせて、握り拳をつくり歯ぎしりした

    「留三郎おぉおおおお…」

    「もそ」

    「おお長次の言う通りだ!今の顔はおなのこの面では無いぞいつも凄い顔なのにもっと酷くなっいる」

    「どー言う意味だー!!!」

    文次郎が小平太に掴みかかり互いに髪の毛を引っ張り合いもつれ合っていると襖が開くと同時に
    凄まじい顔の女が入ってきた

    一目で女ではないとわかるがキラキラとした瞳に艷やかな髪、派手で若い娘向きの流行りの着物をきた自分を美しい娘と信じて疑わないこの女装はー

    「山田先生!!」

    「伝子とお呼び」

    くわぁと牙を剥く勢いで怒鳴った山田伝蔵に3人は居住まいを正す

    「で、伝子さん!」

    「聞いたわよ貴女達…女装の課題、上手くいってないんですって?」

    「はい。実はそうなんですよ…」

    「しかしこれ以上何をどうすれば良いか分からなくて」

    「もそもそ」

    3人の女装を頬杖をつきながらウンウンと聞いていた伝子さんは急に刮目し

    「今回の女装の課題は私が担当よ!私にお任せなさい!必ず貴女達を合格に導いて差し上げるわ!」

    「え!?山田先、伝子さんが!?」

    「私達の女装を!?」

    「もそ」

    実際かなり三人は不安になった
    だって伝子さん
    伝子さんなんだもの そりゃあ不安になりますわ

    しかしそんな三人の不安をよそに伝子さんは自前の化粧品やら振り袖を一瞬で取り出し

    「さあいくわよ!
    メイクアーップ!!!」

    メイクアーップ…
    メイクアーップ…
    メイクアーップ…

    三時間後…

    「めちゃくちゃ時間がかかったな!」

    「女の支度には時間がかかるというものよ。さあ貴女達。鏡で自分をみてご覧なさい」


    伝子さんに言われて三人は手鏡で己の女装を確認した

    「おぉ…」

    「これは…」

    「もそ」

    三人の女装は前のものより化粧が更に濃く艶やかになり、パサパサの髪に伝子さんの使う髪油を使っての艶々サラサラにし、睫毛は長くなり眉は濃く、紅は三人がいつも使うものより高価であった

    着物も派手で振り袖は三人の男のガタイを隠しきれず男がまびろでている

    「以前より美しくなった気がする…」

    「些か不安だったが、こんなに変わるものなのだな!」

    「もそ」

    三人は女装のしすぎで気が変になっていた

    「ふふ、自信がついたようね。さあいくわよ!街へ繰り出し!男を誘惑しメロメロにするのよ!」

    「なっなんだってー!?」


    課題の内容は若干変わることがある
    以前までの課題は女装した姿で誰にも不審に思われずいかに街に溶け込むかであったが
    先生によっても内容が変更することがあり、今回は誰にも女装がばれることなく、
    街の見知らぬ男に声をかけて誘惑し、人気のない路地裏等に連れて行くというものだった

    「伝子さーん!連れて行った後はどうすれば良いのですか!?」

    「その時は適当にまいて帰ってくればいいのよーお腹の調子が悪いとか、約束があったとか」

    「もそ」

    「長次も不安がっている。」

    「まぁ無理もないわね。最初は不安でしょうから…まずは私がお手本を見せるわ」

    言うなり伝子さんは肩に髪を撫でつけ色気を振りまくと腰を左右に振りながら街へ繰り出した

    道行く人がぎょっとして避けていく

    「流石山田先生だ!女になりきっている!」

    「もそ」

    「おいみろ!早速男を捕まえたぞ!」

    いつもなら山田先生の女装にげんなりしているのだが今回はテンションがおかしくなっていたので伝子さんが絶世の美女かなんかにでも見えていたと後に文次郎は語った


    「な、なんですか貴女は!?」

    「あらーんうふんちょっといいかしら?こっちよこっち」

    「ひ、ひい!!!!」

    抵抗する男を伝子さんは引きずっていき路地裏へ誘い込んだ
    少しして伝子さんが一人でるんるんとでてきた
    遅れて男が泣きながら走り去っていった

    「こんなところよ。貴女達、やってごらんなさい」

    「おお〜…」

    見るからに誘惑という雰囲気ではなかったが、用は自分が如何に女であるかを認識し行動に移すことが重要なのだ

    「よし!私からいく!いけいけどんどーん!」

    小平太は勢いよく走っていくと歩いていた男に声をかけ少し話をしていたが、男が全力で首を横に降り出したところで
    「細かい事は気にするな!いけいけどんどーん!」
    と叫ぶと男の腕と足を掴んで頭上にかかげ、路地裏にズカズカと入っていった

    「少しデリカシーにかけるけど合格よ~ん」

    「やりぃ!」

    「もそ…」

    長次は道端で立ち止まっていた男に近づいていった

    「な、なんですか…?」

    長次は無言であったがにぃいいいと頬を左右に引きつらせて笑った

    「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!アハァアハァアハァ!」

    「う、うわー!」

    路地裏へそのまま追い込んだ

    「合格よ!」


    「やったな長次!」

    「もそ」

    2人はハイタッチを交わした

    (むぅ!まさか二人が一発で合格してしまうとは!ここは俺も一発!力ずくで…!)

    文次郎は今回の実習が前よりもはるかにやりやすくなっていることに気づきにやりとした
    これは合格間違いなしだ。しかも今の自分は伝子さん直伝の女装で女に磨きをかけている
    そして女の見かけによらぬ腕力
    女の魅力でおとし腕力で男を担げば合格すること間違いなし

    腕が鳴る拳の関節をぽきぽきと鳴らし

    「参る!」

    「がんばれよ!」

    「もそ」

    二人の声援を背にし文次郎改め文子は肩に髪を撫でつけ品をつくり歩く

    丁度前から男が歩いてきたので、録に顔も見ずににっこり微笑んで声をかけた

    「そこの素敵なおにーさん…」

    「ん?私の事で?」

    非常に耳に馴染んだ、耳にタコができるほど知っている声がした

    同室の立花仙蔵だ

    文次郎は声をかけてからかたまった

    (せ、仙蔵!?しまった!今日は我々は課題の補習があるが休みか…!よりにもよって女装の名人であるこいつに声をかけてしまうとは…!絶対笑われる…!)

    仙蔵は文次郎の女装を鼻で笑うと己も女装してこれが完璧で美しい女装だ…!とみせつけてくる

    女装の課題を未だに受かっていない事すら冷たい目で見られているのに、ばったり街で会ってしまうとは…いつものようにダメ出しをし難癖をつけられるにきまっている
    そして今回の課題は誰にも女装がバレずに男を誘惑するというものだから仙蔵にバレた時点で文次郎はおわりである


    文次郎は不合格を想像しただけでも怒りが溜まってきてぴきぴき…と顔に張り付いていた白粉がひび割れていくのを感じた

    (くそ〜ここまでして落ちるとは!小平太も長次も合格したというのにー!貶すなら貶すで早く言いやがれ)

    仙蔵はまじまじと文子を見ていたがふと町娘を虜にする屈託のない笑みを浮かべ

    「お嬢さん。私に何かご用で?」

    「あーはいは…え?」

    文子はてっきりコケにされると思っていたのだが、意外な仙蔵の反応に目玉がとびでるばかりに驚いた

    それは陰ながら見ていた長子と小平太子も同じである

    「んー?仙蔵のやつ気づいとらんのか?」

    「もそ」

    「女装がバレていないなら課題は続行ですか伝子さん!?」

    伝子はじっと楽しげに文子とおしゃべりをする仙蔵を睨んでいたが一言

    「あれはだめね、気づいているわ」

    「え?ならどうして文子の茶番に付き合ってるんだ?私には本気で騙されているようにしか見えん!後でからかってやろう!ダハハハハ!」

    「もそ」

    「文子さんは不合格ねやれやれ…あら!?あすこで着物のタイムセールがやってるわ!?ちょっと私行ってくるから!文子さんに不合格って伝えといて!」

    課題中の生徒をほっぽり出してタイムセールに走るのは教師としてあるまじき行為だが、今の山田先生は伝子さんなので心から女になっており、女の本能の赴くままにタイムセールに群がる女達の中へ飛び込んでしまった

    「そうかー仙蔵のやつわかってるのかー前から思ってたが性格が悪いなー」

    「もそ」

    そうこうする間に文子と仙蔵がいなくなっていた

    「ありさっきまでいたのにまさか路地裏か?」

    「もそ」

    路地裏を確認したが誰もおらず、野良猫がにゃーおとないているだけだった

    「いない」

    「もそ」

    探しに行って不合格を伝えに行くべきか否か、二人は顔を見合わせたが、小平太は頭の後ろで手を組んで

    「探すのめんどくさいから、いっか!」

    「もそ」

    二人は帰っていった




    (どうしてこうなった?)

    文次郎は本当にどうしてこうなったかわからず、渡された湯呑みを呆然と見ていた

    茶に映る己の顔を再確認する

    艷やかな髪は町娘風に整えられ健康的な肌はいつもより白く塗られ頬紅は濃く口紅は赤く
    睫毛はぎょろりとした目玉をふちどり

    いい女だ…



    「どうかしましたか?」

    ぼうっとしている文次郎に仙蔵がにこやかに声をかけてきた
    こいつは本当に気づいていないのか?
    いくら女装してあるとはいえ同室の中なのだし、同じい組だし、何より顔のパーツでわからぬものか

    文次郎なら仙蔵が女装していてもすぐにわかる

    長年過ごしてきた月日を考えれば当然のことであり、なにより仙蔵が見抜けないというのが疑問であった

    「俺の女装が仙蔵を欺くほどに完璧すぎたか…?」

    「何か?」

    「いいえおほほー」

    裏声をだして笑い過ごすと仙蔵は文次郎に再び笑いかけとりとめのない話をする

    「いい天気ですね」

    「ええそうですわね」

    「こんな日にお嬢さんのような素敵な女性に声をかけられて私は運が良い」

    「お、おほほ…」

    仙蔵のやつ本気でお嬢さんと思い浮かれているのではないか?
    だとしたら若干の罪悪感とおもいきり正体を明かして嘲笑ってやりたい気持ちが湧いてくる

    女装の事を聞いても仙蔵はふん、とすましておまえはそもそも素の顔からして女ではないから駄目だなどと根本から否定してくる

    その男の鼻の穴をあかしてやれるのだ
    文次郎の中に悪い考えがうかび、もう少しつきあってやろうと思った
    もちろん課題のことは忘れていない。
    いないが、路地裏に最後に連れ込んで正体を明かせば、合格になるのだから、少しからかってからでもよかろうと
    忍者は油断してはならないと日頃神経を張りめぐらせせている学園一ギンギンに忍者している潮江文次郎にしては珍しい心の隙ができてしまった
    既に課題は不合格であり、誰も見ていないというのに

    そこでふと、陰ながらみている筈の山田先生と小平太長次がいないことに気付き、疑問に思ってキョロキョロとした

    気配はない
    場所を移動しようと仙蔵に引っ張られて団子屋の中に入ってしまったからか、見失わせてしまったか何らかの事情があったかー

    「何か気にかかることでも?」

    仙蔵に声をかけられてはっとし

    「なんでもござんせんわーおーほほほ」

    適当に笑って誤魔化そうとしたが、仙蔵は眉をひそめて文子をみている

    (バレたか…?)

    ヒヤヒヤとしていると、仙蔵がふいと顔をそむけて

    「貴女から誘ってくださったのに、まるで私に無関心ではありませんか。少しひどいのでは?」

    不貞腐れて拗ねた様にそっぽをむく仙蔵に文子はホッとする
    バレていない…!バレていないどころか仙蔵の奴メロメロになっている!
    これは他の二人を上回る高得点だろう!

    文子はニッコニコで仙蔵の顔を覗き込み
    「そんな事!わたくし貴方が、まさか本当に誘いに乗ってくれるとは思っておりませんでしたから、もう心臓がギンギ、バックバクで!破裂しそうなのですわよ!」

    ずいずいと仙蔵に顔を押し付けるように接近して言うと仙蔵は気圧されたように身を後ろにひき

    「そ、そうですか…それは嬉しいな。
    さぁお茶が覚めてしまう前にいただきましょう」

    「やだー!このお茶とてもおいし、うぐげほごほ!ごほ!うえ!」

    別の器官に入ってしまったようで文子は咳き込み、仙蔵が大丈夫ですかととんとんと背中を叩いてくれた

    手つきが非常に優しい
    本当に女に対する扱いのようだ

    文子はちらりと仙蔵をみあげる

    同室とはいえ仙蔵は文次郎より背が低く、下から顔を覗き込む機会は中々無い

    整った顔立ちだと同じ男の文次郎でも思う
    普段見慣れて滅多にまじまじと観察することのない顔だが、線は細く白い瓜実顔に鋭い目 睫毛は長く全てのパーツが整っている

    文次郎など十五歳なのに老け顔ー老け顔ーといわれ内心傷ついたりもした

    (これほど面が良ければ、さぞかし女にモテるだろう。よりによって俺にひっかかるとは…そろそろ終わらせるか)


    文子は仙蔵に礼を言うと少し改まって…

    わたくしと火遊びいたしませんことー!?

    といおうとしたのだが、喉につっかえたようで言葉にならなかった

    (あれどうした俺まさか緊張している…?この俺が…?)

    言おうとはしているのだがいざ口に出そうとするとどうしても言葉にならずうんとかすんとかしかならない
    (しっかりしろ俺!さっさと課題を終わらせてギンギンに鍛錬を再開せねば!)

    しかしうまく切り出すことができずにえんえんと咳払いをして誘うことができない

    仙蔵はじっとして文子の言葉をまっていたが、やがて察したのか

    「…もう少し、私とお付き合い願えませんか?」

    手を取り重ねられると、己の手が如何にゴツゴツとして無骨で女でないと理解させられると共に、仙蔵の手のしなやかさ、色の白さよ

    その事が妙に気にかかりばくばくと心臓が早鐘を打ち出した

    仙蔵が何を想い考えているのか分からない
    ただ目がこの上なく真剣で常に無い真面目な面持ちに文子は益々緊張しごくりと生唾を呑んだ



    既に日は落ち辺りは暗くなっていた

    文子は仙蔵に連れて行かれるままふらふらーとついて行ったが通りが明らかにさっきまでと変わり、体が強張った

    (おっ?これ全然来たことないし用もないから素通りしてたが、出会い茶屋では?)

    出会い茶屋とは
    男女がいかがわしいアレヤコレヤをするための店である

    素通りするのかなーと思っていたが仙蔵がおもむろに店の中へ入っていくと流石に足がかたまった

    (え、こいつ何してんだ?俺だぞ?わからんのか?俺だぞ?こんなごつい女いるわけないだろー?)

    自分で女であることを疑ってはならないのに思ってはならない事を思ってしまうまでに文子は動揺していたがら仙蔵に手首を取られて中へ連れ込まれた

    部屋に入ると仙蔵が覆いかぶさってきたのでぽかーんとして文子も畳に倒れ込んだ
    一体なにがおきているのか?
    何が起きていると言えばもう見たまんまのことしか起こっていないのだが、文子は初めて見る仙蔵の男の顔に困惑し、目を逸らした

    顎に手をやられ持ち上げられると視線が重なり合う

    「嫌ですか?」

    ここまでして嫌とか聞くか?と思うが声が出ない
    思いの外ビビり散らかしすぎて声に出ず種明かしをする間もなく仙蔵の顔が近づいてくる

    (こいつ…!本気か!?手籠めにするのか!?)

    文子は突然覚醒し仙蔵の顎に頭をぶつけて直立すると大声で

    「このバァカたれ!!!!俺だ俺!!潮江文次郎だ!!!立花仙蔵ともあろう者が見てわからんのかこのスケコマシが!!!!」

    なんだかわからぬが恥ずかしいやら照れるやら怒りがおさまらないやらで文次郎はかーと体が熱くなり顎を打って痛そうにする仙蔵をゆびさし

    「貴様ぁあ!!純情な乙女を手籠めにしようなどと言語道断!俺だから良かったものの、こんな性急に事を進めて恥ずかしくないのか!?仙蔵よ!」


    仙蔵はいたーと顎を押さえてうずくまっていたが急に肩を震わせてくつくつと笑いだしやがて声を上げて腹を抱えて仰け反った

    「アハハハ!最初から分かっておったわ馬鹿文次が!その下手な女装でこの立花仙蔵を欺けるとでも思ったか!?どこからどうみても男だぞ!小平太も長次もどこからみても女に見えんかったわ!」



    「き、貴様ぁあ!全部見ていたというわけか!?」

    「最初からな、小平太も長次も無理矢理男を担いで路地裏にはいっていくものだから、まぁどんな課題かはわかったが、お前達あれは本当に酷いぞやり直せ」

    急に真顔になり諭しだした仙蔵に文次郎の肩からずるりと着物が崩れた

    ダダダダダと廊下を駆ける音共に襖が勢いよく開かれて、怖い顔をした男が憤怒の形相で仁王立ちしていた

    二人はきょとんとしてからすごすごと部屋を出て頭を下げながら店を後にした


    「はーははははは愉快愉快。こんなに愉快なのは久しぶりだ」

    「貴様こけにしおって…!大体気づいていたのなら最初から言え!悪趣味にもほどがあるだろ!」

    既に学園の門限は過ぎており、小松田さんに大目玉を食らうだろう
    そう思うと胃が痛くなってきた

    おまけにこの分だと課題には不合格だろういつの間にか山田先生も小平太も長次も完全にいなくなっていたし

    散々な一日だ 

    「なんであんな、出会い茶屋などに連れ込んだ!?随分手慣れていたが初めてでないなら、忍者というものは三禁が…」

    「初めてだ」

    仙蔵は呟いてから文次郎の手を取りそっと握った

    「おい!なんのー」

    「女になりきらねばならんのだろう?なら覚えておけ。こういうときはおとなしく男に身を委ねるものだ。次の課題に向けての練習と思え」

    ぐっと唇を噛んで無言で握り返すと答えるように掌を包みこんだ

    白く細く柔らかい手

    女のような手をしているのに、先ほど押し倒されたときの力は思いの外抗いたがいほどに強かった

    文次郎はそっと顔を仙蔵から背ける

    「…なぁ文次郎。今日は一日お前を連れ回して悪かった 悪かったが…
    私はお前が、男を口説くと思うだけで不快だっただけだよ」

    妙に真面目くさってそんな事を言う仙蔵に文次郎はげーと舌を出し
    「気持ち悪い事を言うな!課題だ課題!誰がお前以外の男とあんなところまで…」

    言ってから自分でもこれでは仙蔵以外の男に興味がないと言っているようだなと気付き
    気づいたときには仙蔵は辛気臭い真面目面からにーと人の悪い笑みを浮かべて

    「そうかそうか。文子さんは私以外の男にはなびかないか!可愛いことを言ってくれるじゃないか!」

    「やめろやめろ!言葉の綾だ!たく調子に乗るんじゃない!」

    絡んでくる仙蔵を鬱陶しがりながら学園へ戻ると案の定小松田さんが鬼の形相になっており朝まで説教をくらった

    結果、女装の課題は始まった時から落ちていたことがわかり、何のために仙蔵に付き合ったのか分からなくなった

    「まー文次郎の女装は本当に酷いからな。仕方ないから、今度私の女装を見せてやる。町へ出かけるから、周りの反応もよく見ておくといい」

    そんな事を言って悔しいが流石にこれ以上女装で落ちるわけにはいかないので、近くでよく観察させる事を条件に文次郎は仙蔵改め仙子さんと町へ出かけた

    仙蔵の女装は相変わらずどこからどうみても女にしか見えない上に美しい

    周りの男もチラホラと仙蔵を目で追いかける

    当の本人は

    「やめろくっつくな!鬱陶しい!」

    「馬鹿たれ。逢引する男女が逆にここまでくっついておかないと不自然だろう?」

    「ば、何が逢引か!勝手にしろ!」

    仙子はにっこりと男を虜にする人誑しの笑みを浮かべると、文次郎の腕に自らの腕を絡ませて胸を押し付けるとぎゅーとしがみついた

    この胸は宝禄火矢で、偽物なのだが悪い気はせず周囲の男たちの妬ましい視線を受けながら文次郎は仙子と歩いた

    盗み見ると仙子は嬉しそうににこにことしていて上機嫌だ

    周りから見ても、文子と仙蔵より仙子と文次郎の方が自然に映るだろう

    「…やはりこっちの方がしっくりくるな」

    「何か言ったか?」

    「別に」

    仙蔵はふーんと相槌をうってから笑い

    「私は逆でも楽しかったぞ?文子さん」

    「やめろ!こいつ馬鹿にしやがってー!」

    文次郎が怒ったと仙子が駆け出して逃げていき文次郎は呆れながら追いかけた

    まぁ女装がどちらであっても一緒にいるのは悪い気はしないのだ
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