【ワイキィ】〜強制徴収〜※キャプション通り、Xで呟いたネタの続きです。読まれる場合はそちらお読み頂いてからの方が分かりやすいと思います。(キャプションにリンクあります)
※捏造500%(いずれ書きたい過去ネタ)です。
族長の口調とかわからなさ過ぎるから緩く見てネ……!
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「しかしまあ、随分と差をつけられたもんだ」
他人の金で食う嗜好品は美味いな。と、勝負の戦利品であるドキドキポンポンを一粒ずつ頬張っていると、そんな苦笑混じりのぼやきが隣から聞こえた。そちらを見ると俺や子供達に倣って集落の縁に片足胡座で座り込んでいるワイナが、胡座をかいている膝に頬杖を着いた格好でこちらを覗き込んでいた。目が合ったせいか、ふと微笑んでくれたのが何だか嬉しい。
「差って何だ?」
「そりゃあ色々と……昔は私が教える側だったって事実が感慨深いなぁと思ってね」
今は寧ろ君から教わりたいぐらいだ。なんて曰うものだから、思わず溜息をついた。何を言っているんだこの人は。
「アンタに俺から教えるモノなんかひとつも無いさ」
「いやいや、さっきの見ただろ?無様なもんさ、歳はとりたくない」
確かに先程の勝負にはこちらが勝ちはしたが……。
「手を抜いてた癖によく言う」
「いやいや結構本気だったよ?君は私を買い被りすぎだキィニチ」
「そんなこと無い」
普段見ることが少ないから分かりにくいが、彼は俺が知る中でもとびきり鉤縄の扱いが上手い。俺がコレを使って上手く立ち回れるのも、元はと言えば彼にアドバイスを沢山貰えたからだと思っている。
「アンタは俺にとっての目標だったし、今でも憧れの対象に変わりない」
「うーん、我らが懸木の英雄に言われると気恥しいな……まあ嬉しいよ、ありがとうな」
そう言って、わしわしと雑に頭を撫でられる。折角恋人同士になれたのだから、いい加減子供扱いはやめて欲しい。そう思う反面、彼にこうやって触れて貰えるのは嬉しいし、とても心地好いのだから困ったものだ。
「……ん、」
思わず目をつぶって堪能していると、ピタリと彼の手が止まり引っ込められてしまう。それが気に食わなくて、ムッとしながら目を開けてそちらを見ると、そっと目を逸らされてしまった。
それでも数秒その横顔を見つめていれば、彼はコホンと取り繕う様な咳払いをしてから立ち上がり、軽く手を叩き、談笑する子供達を振り向かせた。
「はい、じゃあ今日はもう解散!宿題は免除だけど、今日私やキィニチお兄さんから習った事はよくよく覚えておくように」
「……お前達なら分かっているとは思うが、今回は特別なだけで基本的に鉤縄は人には向けるなよ。危ないからな。分かったか?」
【オメーが言えた事かよそれ】
要らない茶々を挟んでくるアハウを手で払いながら「わかったか?」と声を掛ければ「はーい!」と聞き分けの良い返事が上がり、思わず頬が緩む。よく出来た子達だ。
「今日は風が強い、足元に気をつけて帰るんだぞ」
そう声を掛ける最中、子供達は立ち上がって口々に話しながら帰ってゆく。その様子をワイナと二人で見守っていると、遅れて1人の快活そうな男児が立ち上がると声を上げながら駆け出す。その後をすぐに1人が追いかける。
「魚獲りに行こうぜ!」
「行く行く!」
「あ、待ってよぉ!」
2人が駆けて行くのを見た1人の男児が、遅れて立ち上がると後を追うように駆け出した。
――瞬間、強い突風が吹いた。
それは特に珍しいものではなくて、高所である懸木に住む者には日常的な事。それ自体に身体を持っていかれる事はたとえ幼い子供であろうと滅多に無い。けれど、子供というのはいつの時代も迂闊なモノで。
「あっ」
その小さな腕に抱いていた中身の少なくなったドキドキポンポンの容器が風に煽られて手元から離れる。それを阻止しようと、思わず手を伸ばしてしまった彼はその格好のままに、ぐらりとバランスを崩した。
木組みの床から足が離れて宙を舞う。それは空を飛べぬ人間にとって絶対の死を意味する無謀な行為。
隣のワイナが1歩を踏み出す前に、前方の空中にアハウの力で生み出した鉤縄を引っ掛けて、大きく踏み出した。一足飛びにその小さな身体に追い付いた所で彼の服を引っ掴み、先程自身が立っていた辺りへと 入れ替わる様に思い切り投げ飛ばす。
「ッ……、」
咄嗟の事だというのにしっかりとその身体をワイナがキャッチしてくれたのを目視で確認しながら、俺はそのまま重力に伴って自由落下してゆく。
どんどん離れてゆく懸木の集落。その向こうに広がる真っ青な空と白い雲が眩しくて。
あぁ今日はいい天気だな、と思った。
「キィニチ!」
そんなのんびりとした俺の思考を遮るのは焦った様な必死な声。真っ青な空を翡翠が彩った。
自由落下する俺よりも速く、空を翔ける様に羽ばたく様に。急降下してくる彼から差し伸べられる逞しい腕がまるであの日のままで――思わず頬が緩んだ。
――――
「「……」」
ぷらぷらと、宙に浮いた足をわざとらしく揺らしながら下を見る。眼下に広がる青々とした木々は未だ遠く小さく見えるので、思ったよりも地面までは距離がある様だ。大体、集落と地面の中間ぐらいといったところだろうか。
逆に上を見上げれば、目の前に広がるのはこれまた愛しい緑色。彼の頭上に伸ばされた左腕についた装置から射出されている長い鉤縄は、集落の木組みの土台に巻き付き固定されている。止まりかけの振り子のようにゆっくりと揺れる2人の影が岸壁に映っていた。
彼のサングラスの下から覗く目を見つめていると、すぐにバツが悪そうに目を逸らされる。それでもなお、絶対に落とさぬようにと強く抱き寄せられた腕の温もりを愛しく感じながら、彼の首に腕を回す。そのまま肩口に頭を擦り寄せれば、ふわりと優しい香りが匂った。
「……アンタは、俺が懸木に降り立つ瞬間も跳び去る瞬間も、誰より見てくれていると思っていたんだが……毎回余所見でもしていたのか?」
「うぅ……」
わざとそうやって意地悪な言い方をしてやれば、彼は逸らしていた目を瞑り小さく唸る。それが面白くて、思わずクスクスと笑っていると彼がゆっくりと目を開いてこちらを見下ろした。
「すまない、余計な事をしたね」
「全くだ、言っとくがコレに関してはアンタより俺の方が確実に安全に降りられるからな」
「うーん、ごもっともで」
引っ掛ける場所が無ければどうしようも無い普通の鉤縄と違い、俺はアハウの力を借りて何も無い空中に鉤縄を固定する事ができる。だからどんなに切り立った崖であろうとも迷いなく飛び降りられるし、どんなに開けた場所でも森の中の木々の合間を縫うかのように自由自在に跳び回ることが出来る。よくよく知っているだろうに、全くお節介焼きな族長サマだ。
「アンタの中じゃ、俺はまだあの日の迂闊で根暗な子供のまんまか?」
「そうじゃないんだけど、つい身体が勝手に動いてしまったんだ……本当にすまない」
そう言って申し訳なさそうに謝る姿に苦笑する。助けてくれたのだから、本当は謝る必要なんてないのに。
「……ヒヤッとした?」
「じゃなきゃ助けに来ないよ」
「ふーん……」
英雄になってから――いや、それよりもっともっと昔から、俺自身がそういう生き方をしているせいで他人に心配されるという事に馴染みがあまり無かった。
〝英雄様ならなんとかしてくれる〟
〝あの廻焔を心配する必要はない〟
〝キィニチなら大丈夫だろう〟
〝あの子なら平気だろう〟
他人に何かを心配されたくなかった。放置して欲しかった。何かを求めた瞬間そこには利害が生じると思っていた。無償の愛なんて幻想だと思っていた。
頼って信じた相手に裏切られるのが怖かったから、それなら元からビジネスの関係でありたかった。対等になりたかった。一方的な施しは、まるで自分には価値が無いのだと言われている様に感じて、耐えられなかった。
「……懐かしいと思わないか?昔もこうやって、川で助けてもらった。頼んでもいないのに」
「ん、あぁ……あったなそんなこと」
懐かしいな、と苦笑する彼にとってそれは特別な事ではなかったのだろう。でも俺にとってアレは、とても特別な出来事だったのだ。
〝いいか、今回のは俺が死んで欲しく無かったから助けたんだ。その時点で俺に利があるんだよ、自分の我を通せたんだからな〟
〝ほっとけ、なんて何様だ?なんでお前の言うことを聞かなきゃならないんだ、それこそ俺に得がない〟
〝ほっといて欲しいんなら、俺より鉤縄使いが上手くなってから言え。炎神様くらい偉くなったら考えてやるよ〟
「……まだダメか」
「ん?」
「なんでもない」
力と古名を手に入れて、誰かを守る事はあっても守られる事は無くなった。俺はアンタより強くなったはずなのに、アンタは今でも俺を全力で守ろうとしてくれる。周りに何を言われても、アンタは多分俺を心配してくれるんだって、知ってる。馬鹿だなぁって思うけど、そんなお人好しのアンタが俺は大好きなんだ。
「さて、コレは……上がるより下りた方が楽かな」
「……俺がアンタごと引き上げる方が早いんじゃないか?」
上を見上げて思案する彼にそう提案すると、こちらを見下ろし苦笑される。
「確かにな……少し情けない気もするが頼もうか」
「分かった。代償はどうする?」
「んん、ちゃっかりしてるな相変わらず」
「ビジネスチャンスだからな」
何が良いかな……、と眉間に皺を寄せて考えだした彼を数秒眺めた後、首にまわしていた腕に力を込めて自分の身体をぐいと引き上げる。そのまま軽く唇を重ねてから、下唇を1度だけ緩く食んで離れれば、彼は驚いた表情で固まっていた。
「時間切れってヤツだ、悪いなダーリン?」
ふと笑いながらペロリと唇を舐めて、俺は彼との契約を履行する為に左腕を掲げ、腕輪を起動した。