鼻を通り抜ける酸味に芳醇な赤、ザクロジュースを飲むとぼんやりとある男のことを思い出す。
「メデイモスさま、柘榴の皮は食べてはいけませんよ」
どのような声色をしていたかは既に忘れてしまった。ただ何度も繰り返されたその言葉だけは今も耳に残っている。
王宮の料理人のとある男。俺に、ザクロジュースにミルクを入れることを教えた男。
料理人として働く彼に妙に懐いた俺は、まるで親について行く雛鳥のように暇さえあれば必ず彼の元に足を運び時間を潰した。彼は一介の料理人であったので、今思えば王子である俺を邪険に出来なかっただけかもしれない。それでも「秘密ですからね」なんて言って夕食のデザートのつまみ食いをさせるのだから彼には人を甘やかす癖があったのだろう。そんなところが好ましかった。あまりにも俺が彼に懐くものだから、母がメデイモスをよろしくねと彼と話していたのを思い出す。
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