皺なんてどうでもいいのにね「ピクニックなんて、小さい時に家族でやった以来やわ。」
「俺もですよ。」
いやあ、それにしても晴れて良かった。そう口にする男の髪を暖かな風が弄ぶ。出不精の青年は最初こそ男の誘いに渋る様子を見せたが、この柔らかな気候に包まれる今となっては許諾して良かったと思えていた。
コンビニで買ったおにぎりやサンドイッチを各々食べるふたりの横を、警戒心の欠けた鳩が横切ってゆく。遠くから聞こえてくる子供達がはしゃぐ声や犬の鳴く声、若い女の子達が桜を背景に写真や動画を回す音が耳から耳へと通り抜ける。青年はまだいくらか蕾の混じった小さな花々を見上げ、視界をピンク混じりの白色に染めながらぼんやりと時間を過ごしていた。
「偶には外に出るのも良いでしょう?」
「ん、そやねぇ。」
男からの声掛けに、青年の視線が男の方へと向き直る。パステルカラーを見続けた直後に濃い紺色がその瞳に映り、そのコントラストが痛く目に染みた。男はそんな青年の頬に手を伸ばし、あぁでも、と続けた。
「家の方が良いこともありますしね?」
青年の唇を男が指の腹で撫で、悪戯な笑みを見せた。どき、と青年の心臓が小さく跳ねる。
「どうします、もう帰ります?」
「ん……。」
控えめに頷く青年を見て、男がへらりと無責任に笑う。青年はそんな男の手を払いのけ立ち上がり、気にもなっていない服の皺を直す振りをした。