あすこここ それが現れたのは仕事を変えて幾日かした頃のことである。
私は親との折合いがよろしくなく、17かそこらで家出同然に就職した。郷里から何時間も夜行に乗って辿り着いた、東京の、郊外の方の、そこそこ大きな工場が次の私の住処だった。女工として同僚や社員さん方には大変よくしてもらった。
が、そこは私の安住の地とはならなかった。
私は数年工場勤めをした後、給料日の翌日にバックレてその日暮らしの木賃住まいの身になった。
その頃である。初夏の、日照り続きの日だった。東京は故郷と違って兎に角蒸し暑い。朝起きてまず窓を開けるのが習慣になっていた。
太陽は家々の隙間から顔を見せ始めていた。ジワジワと蝉の煩いツゲの木の頭が窓からひょっこりと覗いている。
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