とたとたと軽い足音が聞こえたかと思うと、赤司の足に小さな衝撃が走った。振り返って下を見れば、そこにはくりくりとした灰色の瞳でじっとこちらを見つめてくる『黛千尋』の姿があった。
黛は赤司の2つ上の先輩で本来は赤司より背が高いのだが、今はなぜこのように幼くなってしまっていた。
「あかし、あそぼ?」
首を傾げる黛はとても愛らしくて、思わず抱き上げてソファまで連れて行く。そうすればきゃっきゃとはしゃいで喜んでいた。
黛は何故か赤司にのみ懐いていて、何を言ってもニコニコしながらついて来るし何ならトイレにまでついてきたこともある。流石にそれは困ったが、本人はきょとんとした顔をしていて悪意はないようだ。
今もこうして遊ぼうと言ってきたりするし、甘えた声を出しながら服を引っ張ってきたりしてくる。その姿はまるで親猫についてくる子猫のようで、とても可愛かった。
「ふふっ……黛さんは本当に可愛いですね」
頭を撫でれば嬉しそうに笑うので、ますます愛着が湧いてしまった。普段無表情であまり感情を表に出さずクールな黛だが、幼い頃はこのように明るく素直だったらしい。
黛の柔らかそうなほっぺたに手を伸ばして両手でふにふにと触ると、「やーめぇろぉよぉ~」と言いつつもされるがままになっている。それが面白くて何度も繰り返せば、とうとう怒られてしまった。
「いじわるすんなよばかぁ!!」
むぅっと膨れている顔もまた愛おしい。赤司はそのまま黛を持ち上げると、自分の膝の上に座らせて抱きしめた。
「ちょっ!? はなせってば!! おい、聞いてるか!?」
じたばたともがく黛だったが、結局赤司の腕から逃れることは出来なかった。諦めたのか大人しくなった黛を見て満足げに微笑んだ赤司は、黛のお腹に手を回してさらに密着させる。すると黛はくすぐったそうに身を捩らせていたが、やがて赤司の方を向いてきた。
「あかしぃ……」
黛は蕩けるような甘い声で名前を呼ぶと、そのままちゅっとキスしてきた。突然の行動に驚いたものの、すぐに受け入れてしまうあたり自分も大概だなと思ってしまう。
「まゆずみさん……?」
唇を離すと黛はぼんやりと赤司のことを見上げてきて、その視線に耐えられずまた口づけをする。今度は先ほどよりも長く、舌を差し込んでみると黛もそれに応えてくれた。
「……ぷはっ」
呼吸のために一度離れるが、それでも足りなくてもう一度深いキスをした。そうやって何度か繰り返すうちに、黛の顔は次第に赤く染まっていく。息継ぎの仕方がわからなかったのだろう。
苦しそうに眉を寄せながらも必死について来ようとする姿が健気で、愛おしくて堪らなかった。
「大丈夫です、鼻で吸うんですよ」
そう教えてあげると黛は言われた通りに鼻で空気を取り込むが、やはり苦しいものは苦しいらしい。目に涙を浮かべていた。
「……っもういいだろ!」
耐えられなくなった黛は、ドンッと赤司の胸板を叩くが力は全然入っておらず、逆に腕の中に引き寄せられてしまう。
「こっちの方が楽でしょう?」
耳元で囁けば、黛はビクッと肩を震わせた後に小さくコクンとうなずいた。頬を緩ませながらすりすりと擦り寄ってくる黛の身体を抱き寄せて、赤司は思う存分黛との時間を堪能した。