【澄空に咲く、明日の太陽とともに】(それは)
(わたしの人生で、一番初めに優しくしてくれたあなたたちとの)
(『はじめまして』と『さよなら』の夜噺)
次第に初夏の気配を孕み始めた昼間の太陽の空気も、沈んでしまえば途端になりを潜める。地上250mにある東京タワーのトップデッキは寒いくらいだ。
涼しい夜風に、僕のアイボリーの外套が揺れる。
熱帯夜は、未だ遠い。
「怪盗リコリス」
滑舌の良い、凛と張った爽やかな声が僕の背を軽く叩いた。
今の彼の声には、これまで幾度となく追われてきた際に投げつけられたような棘はない。この穏やかな声音が、生来のものなのだろう。
驚くことはない。選択を委ねたのは紛う方無き僕だ。仰ぎ見ていた月から視線を外し、背後を振り返る。
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