気づいた。オレはなぜだかその表情の意味を分かってしまったから、一歩だけ、彼を守るように前にでた。
「ワタルさんには本当によくしてもらっていて」
オレの名を口にした、隣に並ぶ14歳の華奢なこどもが感情を無にして薄っぺらく微笑んでいる。
話し相手は、物事の表面しか知らないようなリーグのお偉いさん。仕事上しかたのないことだが、この上司とはなるべく口を聞きたくないのだ。オレは今、不満が全身から漏れ出ていることだろう。
しかし、グリーンからはそんな気配がちっとも感じられなかった。子どもに接待させるんじゃない、あのクソジジイ。
話が終わって、苦手なやつが見えなくなれば、グリーンは大げさに伸びをした。そして疲れた、と一言漏らす。
「オレずーっと顔作っててさ!引き攣って痙攣するかと思ったー!マジあのジジイ話なげえな!」
グリーンはそう悪態をついた。文句を言う様子が年相応でほっとする。
いったいどうしてこの子はあんな表情ができるのだろうか。感情を人に気づかせずに、静かに微笑む、あの顔が。
グリーンと目がかち合った。光が琥珀色の目玉を差して鋭く光ったので、つい身体が強張る。
「ワタル、サイコソーダでもおごってよ!休憩しようぜ?」
グリーンは屈託のない笑顔を浮かべて、少しいたずらっぽく語尾を上げた。
オレの身体の強張りはなくなり、ゆるく、軽やかになる。
「いいや、まだまだたくさん仕事あるからな。それが終わってからだ」
「しょうがねーな、わかったわかった!」
不平を漏らさずついてくるとは思わなかったので驚いて立ち止まっていると、グリーンは背中を押してくれた。そしてそのまま彼は珍しくオレのあとをついてくる。一歩後ろを。