無題「Good evening, Shadow.」
波音しか聞こえない世界に、静かに声が響いた。振り返らなくても、声の正体は分かる。
「…またか。」
「ご挨拶だな。俺が行く所に、たまたまお前がいるんだろ?」
くだらない、そう判断して黙りこむと相手も何も言ってこない。
…足音が近づいてくる。やれやれ、とでもいいたげに。少し離れて隣に来たが、それ以上は踏み込んでこない。
「今日も、任務が終わったあとのお散歩か?」
「答える義理はない。」
「…相変わらず冷たいねぇ。」
こちらの心中を知ってか知らずか、なおも軽口をたたいてくる。
…深いため息をついた。
待ち合わせをしていたわけでもなく、お互いを見つけようとしていたわけでもない。
702