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    kameyamakameta

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    kameyamakameta

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    以前擬人化アンソロに出した小説を原型に手直ししたもの。と言っても細いところだけでそんなに変わりません。
    フライとハーディの話。

    残光(原型版)「約束のものを、取りにきました」
    「ああ、用意をしてあるよ。」

     基地本部の奥。老いた金の方の居室を訪ねるとあの子が還ったと聞いてね、そろそろ来るだろうと思っていた。そう言って通された客間の机の上に一枚の写真を滑らせてくる。
     2匹の爆弾隊を撮ったもの。
     1匹は自分。そしてもう1匹は自分の先輩であるハーディだ。
    薄っぺらいそれの縁を鰭でなぞると、惜しいなぁと金の方が言う。
    「その写真、よく撮れているだろう。どうだい、やはりとっておかないかい?」
    「…約束ですので。」
     この写真を撮るのにハーディが約束させたのは二つ。
     後輩の自分と共に撮ること。
     そしてどちらかが還ったら残った者が写真を引き取って処分をすること。
     先日ハーディが還ったので、自分はその約束を果たしに来た。
     壊すのは得意だ。モノも…それ以外も。
     写真は受け取ったので、これ以上長居する用はない。
     失礼しますと言って部屋を出ようとすると「やはり残ったのは君の方だったか」と声をかけられて振り返る。
    「知っているよ。君が全滅隊長と呼ばれているのは」
     君の周りは皆、相手が強敵かどうかに関わらず死を選ぶと。
    「…あの者と同じ戦場にいたわけではありませんので。」
     関係ないでしょうと言うとそれもそうかと金の方は興味無さげに頷いた。

     ***
    『写真』という記録技術があるらしい。
     目の前光景を、そのまま紙に写しとるのだよ。
     まるで時を止める様に。
     以前の作戦で知り合った金の方が技術的に楽しい部分を話して聞かせてくれているがあまり耳に入っては来なかった。
     時を止める様に、瞬間を写しとる技術。実際、この技術道楽の金の方が撮った写真は現実の時を止めたかのようだった。
    「今度は君たち爆弾隊の子も撮りたいと思っていてね。君さえ良ければ撮らせてもらえないか?」
    「…わかりました。その代わり、少しわがままを申し上げても?」

    「それで、俺が呼ばれたと。」
    「すまんな、写しとる時に強い光が出るからあまり動じない肝の太い奴をと仰せなんだ」
     そういうことならと頷くコイツは訓練所時代の後輩で。動じなさなら随一だろう。
    「少し準備に時間がかかるそうだ。…お前、背鰭が乱れてるな、今のうちに結い直してやろう。」
    「いや、自分でできるが…」
    「いいから座っておけ。せっかくの機会だ。綺麗に結えていたほうが良いだろう。」
    「そういうものか。」
    「そういうものだ。」
     じゃあ頼むと座り直した後輩の後ろに周り、綺麗に整っている三つ編みを解いて胸鰭の先で梳いてやる。
    「こうして鰭を結ってやるのは訓練所以来か。」
    「…そうだな。」
    「しかしあの頃と比べて随分と量が減ったな。」
    「爆発で消し飛んだんだ。後ろの部分しか残らなかった。」
     結っているから頭をあまり動かさないように微かに頷く横顔は、火傷痕を除けばあの頃とそう変わらない。
     自身の中にある狂気を御しきれず、身繕いもままならないコイツの面倒を見ていたのがまるで昨日のようだ。
    「…すまなかったな。病み上がりに呼び出して。」
     共に出撃した爆弾隊の最期に危うく巻き込まれかけて、顔の表皮を鱗共々半分吹き飛ばしたとは噂に聞いていた。
    「構わない。療養は終えたからどうせ次の出撃迄は暇なんだ。」
    「そういえば怪我の功名でお前も名前が付いたらしいな?」
    「ああ、フライと呼ばれるようになった。今は痕が残るだけだが、火傷が治る途中は本当に顔半分が揚げ物の衣のようだったよ。」
    「はは、美味そうな名で縁起がいいな。もう本部に登録はしたのか?」
    「先日済ませた。」
    「そうか。じゃあこれからは『フライ隊長』と呼ばなくてはな。」
    「…まだ耳慣れないが…。」
     そのうち慣れる。俺もそうだったと言えばそんなものだろうかと少し思案する様に目を細めた。

    …随分と「普通の真似が」上手くなったんだな…。
    俺がそう導いたが、正しかったかどうかは分からない。『幸せ』になどしてやれない。最初から分かっていた。

    はぁど。おれは。
    おれはいなくならないと。
    きえて、いなくならないと。

    同胞の亡骸の中、回らない舌で訴えたお前をどうにかこの世に引き止めて数年。
    結局、俺の後輩だったお前は色んなものに上書きされて消えていく。

    惜しい、と思うのだ。
    喪われることを忌避はしないが、コイツがこの世にひと切れも残さないのはどうにも惜しい。
    金の方からこの記録媒体の特性を聞いたとき、これならと思った。

    優秀な隊長と見られての忖度も、気狂いだと怯えられることもなく、見たままのお前が残るのは。
    見て、聞いて、学んで、真似をして、習得して。
    それを取捨選択して、『フライ隊長』になる。
    だからまだ俺の知っているお前が少しでも残っているうちに。
    「…よし、結えたぞ。ああ、用意もできたそうだ。行こうか。」
    「ああ。」

    執着が、お前だけのものだと思うなよ。

     ***
    処分を、と約束をしてはいたがどう始末をつけるのかはお互いの自由だと決めていた。

    お前が残っていたなら、どうしていたんだろう。もし、処分するという約束は自分が被写体になるのを断らないために出した条件だったのだとしたら。
    そうだとしたら。
    …いや、考えすぎだろう。

    基地の区分では紙類は焼却と決まっているからと本部を後にして廃棄物の焼却炉に向かおうとしていたのに、いつの間にか高台の一番上に辿り付いていた。
     真っ昼間の今、誰もが眠っているので風の音しか聞こえない。
     ここからは基地の全体がよく見える。
     出撃の際に乗り込む艦が停まる港、さっき訪れた本部、爆弾隊の宿舎、少し遠くには爆弾隊になるために通った訓練所も見える。

     …あの場所で、お前に出会って、ここまで。

     写真を真ん中から縦に裂く。次は横に。また縦に。
     細かくなっていく破片が、両の鰭から溢れては風に舞う。
     紙片が陽光を反射して、鈍く白く光りながら海へと吹降りていく。
     紙片の反射と波の照り返しの違いが分からなくなった後、その中に何も無くなった両鰭を満たすように目元を押し当てる。その奥でちらちらと、どちらともつかない残像が舞い、そのうち消え失せた。
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