lie、らい、来最寒期が明けて幾分か月日が過ぎ、夜の風も温まって来た。冬籠り中はこの部屋に寝泊まりしていたシェイクも、既に操舵手の住処と自分の爆弾隊の宿舎を往復する生活に戻っている。
もう教えることなど無いから、気の向く時だけ来てもいいんだぞ?と言えば「ハーディ隊長は!僕が居なくて寂しくないんですか!?」とよく分からない怒られ方をした。
素直に、寂しいが?と返せば、じゃあ毎日来ます!と嬉しそうに言うので結局そうなってしまった。
…我ながら副官に弱すぎやしないだろうか。
寝床に座り食休みをしながらそんなことを思っていると、今日も元気に自室を訪れて共に食事を摂り、さっきまで腹の上でころころと遊んでいた副官がこちらをじっと見ているのに気がつく。
「どうした?」
「ふふ、隊長、今日ってなんの日か知ってますか?」
満を持してというふうに言うから、訪ねてきたときからこの話題を振る機会を伺っていたらしい。
ふむ、と今日の日付けを思い出す。
「今日?暖期初月の1日目だが…。」
思い至る節はあるが、それなら言わないでおいた方が楽しそうだと黙っておくとシェイクは今日はですね、と囁くように言ってひたりと体を寄せて来る。
「…今日は、僕が隊長を気持ちよくしてあげる日ですよぅ。たまには『される方』にさせてあげます。」
「ほう?」
シェイクが精一杯背を伸ばして、両鰭で俺の顎を捉えて引き寄せる。
「さ、僕に全部委ねてください、ハーディ隊長…」
そう言って、鼻先を寄せたところで吹き出した。
「ぷふぅっ!だ、ダメですね!全然柄じゃ無くて!!ごめんなさい、今日はエイプリール・フールって前に隊長が教えてくれたから、やってみたかっただけなんです。」
ふふふ、と楽しそうに笑うシェイクに「吹き出さなければなかなか様になっていたぞ?」と言ってやるとまたそうやって揶揄う!あ、それが隊長の嘘っこですか?と問われて、ニヤリと笑ってやる。
「あれ…。その顔、悪いこと考えてるときの顔ですね…?」
「悪いことなんて考えていないがな。…実は、一つお前に教えていなかったことがあるんだ。」
「教えてないこと?」
なんだろうと首を傾げるシェイクに告げてやる。
「エイプリル・フールで嘘をついていいのはな、昼までなんだそうだ。勉強になったな?」
しかも旧霊長類は昼間に活動してしていたから、自分達の暦に合わせるなら昨日の日付けのうちに言わないといけなかったなと言ってやればとても驚いて。
「え、そうなんですか!丸1日なんだと思ってました!…えーっと、そうすると、あの…」
恐る恐る、という様子でこちらをみる副官に頷く。
「嘘つきの副官、というのはいただけないな?有言実行といこうじゃないか。」
「は、ハーディ隊長に、僕が…?で、出来ないですよ…!!」
「まあそれならそれでもいい。しかしやる気くらいは見せて貰いたいものだな。」
誘っておいてフるなんて、酷いじゃないか、とこちらから鼻先を擦り寄せる。
揶揄う気だけであっても、自らを差し出す様な真似をするなど今まで考えたことも無かったが。
やはり、自分はこの小さな副官にことの他弱いらしいと分かりやすく狼狽えるシェイクを見て苦笑した。