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    okm_tmsb

    @okm_tmsb

    自探索者長編やif話はエブリスタにてhttps://estar.jp/users/61829929

    短編とセッションバレorシナリオバレのあるものを
    ポイピクにて取り扱っています。

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    okm_tmsb

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    松川智治と同期警官組のお話。
    シリアスが振り切った。
    「銃声」が松川視点。一緒に読んでもらえると嬉しい。

    抱擁彼は太陽のような人間だった。
    正義感が強く、素直で愚直で、それでいて決して威張らない。
    何か大事に抱えては、それを背負って生きていくことを選ぶ。不器用な奴。
    飼い猫のミケは拾ったのだと教えてくれたが、そうやってきっと自覚が無いだけで、たくさんの人を救ってきたんじゃないかって、勝手にそう思っていた。

    俺を救ってくれた時のように、あの熱さを好ましく思う人間は多いと思う。

    言葉がなぜ言の葉をと書くのか。
    考える暇も今までなかったが、思えば、葉とはその先に何かが芽吹くものなのだ。
    付いた虫を避けて、栄養を与えれば、それは何度でも芽吹く。
    枯れることがないから言の葉なのだ。
    何かを言うことで何かを受け取る。
    それが良くも悪くとも、消化さえできてしまえば立派な栄養なのだ。

    だから人は、そうやって咲いた花を綺麗だと感じる。
    その人が咲かせる花を楽しみにする。
    なんて、どうだろう。
    そうだとしたらもう少し頑張れる気がしないだろうか。
    いや、とても心地よいと思うのだ。

    黒川衽がふと背伸びをした。「あついね」なんて相槌を求めて声を出すが、思った相手は傍にいない。
    しまったと思ってあたりを見渡せば、ふらりと路地に入りこんでいくのが見えて走り出す。
    キョロキョロとあたりを見渡し続けて、聞きなれたシャッター音に視界を振る。
    そこに相棒はいた。周囲の非の眼を気にしてか、またフラフラと歩き出してしまうその肩を力強くつかむまで、俺は息を忘れていた。

    「まっちゃん!」

    こんなところで何をしているのか、そう言葉にしようとしたが、それを察してなのか、「迷子になった」と脈絡なく返答が帰ってくる。

    その瞳はひどく真っ暗で、嘘か本当かなど判別のつけようもなかった。
    それでも、この手を離してはいけないことは理解できて、俺は目的の駅の方へ向かって、その手を掴んで歩き出した。

    ああ、枯れているとは、まさにこのことなんだろう。
    根がぎりぎり水分をくみ上げているような、限られた根しか機能していないような。

    今、彼の吸い上げる事が出来ている栄養はほんの一握りで、いつもなら振り払うこの手を素直に繋がせているのが、何よりの証拠のように感じた。

    彼は今、どんな言の葉をかけてもそれを栄養にする力がない。
    むしろ何を言ってもその根が枯れていくだけのような気さえしてきた、俺の心が先に音を上げてしまいそうだった。

    「凪や智成との約束の時間に遅れたら、まっちゃんのせいだからね。」
    「おう。」
    「・・・・ねぇ、今日本当に行くの?」
    「ああ、復職のためには必要なことだからな。」
    「でもわざわざ屋外でなくても。」

    俺が言っているのは今日向かっている場所についてだ。
    屋外射撃場。それはこの街にはない。
    警官の間ではたまに使われるために、よく行っていた場所だが、復職を目的とした射撃練習であれば、警察所に完備されている施設でも構わないはずだ。
    わざわざ屋外の射撃場を使用するのはなぜなのか。
    それは相棒に聞いても答えてくれなかった。

    銃は日本において、警官や自衛官など一部の人間に許された武力だ。
    それが必要な時に行使できないことがいかに危険なことが、もちろん相棒自身が一番よくわかっているだろう。
    休職するきっかけになったその腹の穴は、まさに拳銃で空いたものなのだから。

    ならば、なおさらなぜ慣れない場所で練習するのか、それに、俺やほかのメンバーを呼んだのか。

    まるで、自分で準備した試験会場の様で、俺にはどうにも納得がいかなかった。
    そんな試験など必要ない。
    彼の拳銃の腕前が著しく落ちているなどと、誰も思っていない。
    危険なそれの扱い方を、警察学校の時から警戒して、誰よりも身に叩き込んでいたのを知っているのだから。

    黙り込んだ相棒に俺は何も言えない。
    小さくため息を付いてまた相棒の手を引く。

    目的の通りに戻ってきて、相棒の手を放す。
    人目の多い本通りに戻ってきたのだからきっと嫌がるだろうと思ったが、それでも相棒から手を放そうとすることは無かった。
    それぞれの体裁として俺から手を放したのだ。
    見るからに動揺しないでほしい。

    心配で顔を覗き込もうとしたが、それにも気づかず相棒は歩き出す。
    迷子だと言っていたわりに、その足は方向を違えることなく振り出されていく。
    その違和感は強いもので、無意識に様子を伺うように後方からついて歩いた。

    「隣じゃねぇの。」

    そう零れた声に、思わずはっとする。
    そうだ、いつも歩くときは隣を歩いていた。
    なんで俺は相棒の様子伺いに徹しているのだろう。

    軽い自己嫌悪に近いものが溢れてきて、その気持ちを振り払いたくて隣を陣取る。
    それでも、相棒の様子は変わらない。

    ああきっと、今また一つ、根が死んだ。

    「おーい!」

    俺さえもどこかふさぎ込み始めていた感覚を引きもどしたのは、級友の声だった。

    「智治!衽!」
    「何だ二人とも随分とふさぎ込んでいるな」
    「第一声がそれなんだね。まぁ、凪らしいかな。」

    ついてきてほしくて自ら一歩前に出る。
    そうして二人と話し出す。
    凪川ミツル。
    冷戦沈着で、まっすぐで、厳しい男。
    穎川智成。
    誰より鋭く、聡明で、明るく、読めない男。
    二人とも俺の同期であり、そして、
    相棒、松川智治が信頼を寄せるメンバーだ。

    「二人共。久しぶりだな。」

    まっちゃんが声をかければ、二人はやはりか、心配そうな顔をした。
    友人として、仕事仲間として、信頼しあう仲の相手として、疲弊した松川の姿は痛々しく映る。
    まっちゃんは少し視線をそらして、それでも話は続けた。「わがままに付き合ってくれてありがとう。」と。

    違うんだよ。お礼を言ってほしいわけじゃないんだよ。やっと言ってくれたわがままを俺たちは大事にしたいんだよ。

    きっとその気持ちは智成や凪も一緒で、まっちゃんの頭を智成がわしゃわしゃと撫でまわした。
    いつもなら嫌がるところだが、まっちゃんは素直に受け止めている。

    「きもちわりぃーなぁ!お前は昔からさ!振り回してやろう位の気概でいいんだよ!
    オマエが降り回そうと思わなくても俺らは勝手に回ってんだから」

    ほら、一緒だった。
    皆心配しているんだよ。
    そう伝えたいのに、なぜかまっちゃんの表情はさらに暗く落ち込んだ。
    ねぇ、何がつらいの?そう聞こうか思案を始めたが、それよりも先に、まっちゃんの口から小さく息が漏れた。

    涙を、我慢するような息遣いだった。

    それを察して、そっと撫でまわしていた智成の手が離れていく。泣かせたいわけではないと、困った顔で俺と凪を見るので、
    「ほら、電車が来るぞ。」と少し乱暴に凪川がまっちゃんの手を引っ張る。

    それは少し焦っての行動だったようで、一瞬ホームを逡巡する。
    とにかく泣けるところに連れていくべきか、
    それとも電車に乗ってしまって目的地に向かうべきか、
    たぶんそんなことを考えて、まっちゃんのプライドを考慮したのだろう。
    目的の場所に付かないうちに泣きだしてしまうのは、あまりにもかっこがつかない。

    まっちゃんは引かれるままに改札を抜ける間もそんな凪のことに気づけない様子で、喉の奥が低く鳴っていた。

    ばたばたと電車に乗り込み。
    向かい合う四人席に座る。
    三人で終始懐かしい話に更けていたが、まっちゃんは相槌を打つことくらいで、ずっと聞いていた。
    駅から目的の屋外射撃場まで四人で並んで歩けば、自然と誰かが必ずまっちゃんの隣にいる状態になった。
    それは、ずっと心配したくてもできなかった俺たちの我慢の限界で、
    うんうんと話を聞いているまっちゃんの根が、少しだけ広がっているような気がして、嬉しくなったのだ。

    そうして気づけば、店についていた。
    来るのは久々だったが、顔なじみのメンバーがそろって店についた時には、
    誰が一番拳銃の扱いが上手いかという話に執着し、神妙な面持ちになっていたからか、店長は驚いた顔をしていた。

    「今日は貸し切りだからな。目標物も出しっぱなしにしてある。日本警察の腕前を見せてくれ。」

    そう言って気前よく、一番さくらに近い型の物を貸し出してくれた。

    いつもなら何かしらゲーム形式をとったりもするが、今日はただ端的に屋外で目標物を撃ち抜くだけだ。

    警察学校自体の成績で言えば、
    俺、凪、智成とまっちゃんがトントンの順番。で、うまい。

    だから、今日はその俺が先陣を切って、やっぱり一番上手いのは俺だと見栄を張ってやろうと思って、俺は銃を構えた。
    早打ちは得意ではないが、端的に当てるだけなら、メンバーの中で一番うまい自覚はある。
    よく褒められる立ち姿を、最初に褒めてくれたのはまっちゃんだったな、などと昔ばなしを思いだいして、姿勢に自然と意識が向く。
    後は引き金を引くだけで、俺はそれを簡単にやってのけた。
    音とともに、目標物に穴が開く。

    「ほら!どう?」と振り返って、俺は後悔した。

    「智治!!」
    「おい、大丈夫か?!息しろ、ゆっくり!!」
    「ヒュっ・・い、な、、、カヒュ・・だ・・」

    振り返った先で、崩れ落ちるまっちゃんの姿が一瞬理解できなかったが、
    その手が腹を抑えているのを見て、急速に理解した。
    強く締め付けられる感覚と、焦りと、恐怖。
    謝ればいいのか、心配したらいいのか、混乱ばかりで言葉にならなかった。
    ただ、ひたすらにまっちゃんの名前を繰り返しては、その意識が落ちる様子を見ている事しかできなかった。




    「松川君。落ち着いたよ。今は疲れて寝てる。」
    「ありがとうございます。」
    「ほら、衽。おまえのせいじゃないって。」
    「そうだぞ、誰が撃ってもああなっていた。
    だから、松川は俺たちを呼んで、わざわざ警察官が多くいて騒ぎになる警察署内の施設を渋ったんだろう。
    「なんでなんだろうって」
    「ああ、俺たちもお前らと合流するまでの間にその話になったし、
    答えは松川しか知らなかった。
    だから、誰が撃っても一緒だった。」

    松川が倒れたあと、三人は休憩場所を借りて休息をとることにした。
    松川は事務所のベットを使わせてくれるとのことで、少し離れて頭を冷やすことにしたのだ。
    凪川の冷静な分析を聞いても、自分を責めるなという方が無理な話だった。

    知っているはずだった、彼の休職の理由を。
    知っているはずだった、彼の心の弱さを。
    相棒であるがゆえに、その脆さと危うさを知っていて、
    相棒であるがゆえに、傍で見ていたいと思っていた。
    今まで彼が咲かせ続けてきた、大輪の花の続きを。
    そのはずだったのに。

    「なぁ、聞いてもいいか?」
    「・・・何?」
    「衽はさ。何を悩んでる?」
    「えっ、、、そんなのまっちゃんがこれから復職できるかとか。」
    「そ・れ・は!松川のことだろう。お前の話をしてんの。」
    「俺?」
    「そうだな。俺もそれは気になっていた。
    お前たち、大通りに出てきたときに手を繋いでいたろう。
    なのにその後はおかしな距離感だった。」
    「み、あーー見えてたのね。」
    「がっつり!んで、
    まぁ、手を繋いでるのも珍しいし、
    お前らが距離感取りあぐねんのも珍しいじゃん?」

    二人は座っていた丸椅子を少し持ち上げて俺に詰めてくる。
    ほかに客はいないし、店長も奥に引っ込んだ今、この距離感はなぜと思いながらも、
    聞かれたままに質問に答える。

    松川が迷子になったこと。隣を歩いてほしいと言われたこと。
    それでも、どう声を掛けたらいいかわからなくなったこと。

    黙って聞いていた二人はそれぞれに目を合わせた。
    迷子だとか云々もそうだが、相当珍しい案件なのは自身でも理解がある。
    それでも、二人から掛けられた次の質問は予想外だった。

    「「なんで、そんなに気を遣っている」の?」

    驚いたうえで、ため息を付く。
    それには明確に返答できる。

    「まっちゃんが迷子になった路地ね。千明さんの職場への近道だったんだよ。」
    「「!!」」
    「今回まっちゃんが失ったものは大きいし、
    埋めることはできない穴が、ぽっかり開いている。
    だから、俺は怖いんだ。」

    あの大輪を咲かせていた花が枯れて朽ちてしまうことが。

    「後追いしちゃうんじゃないかって、、、」

    口にしてから後悔したが、それでも、たぶん二人が聞きたかった“俺のこと”は結局ここなのだ。
    彼は本当に迷子になったのか。
    彼の行動が読めない。読ませてもらえない。
    だから、最悪のパターンを意識してしまう。
    意識すればするほど、言葉が出なくなるのだ。

    ふむ、と二人して思案を始め、そして立ち上がると智成が俺の手を引き、凪川がドアを開ける。
    俺は引っ張られるままに二人の示す方向を見た。
    開いたドアが外の光を室内に取り入れて、二人の後ろ姿がきらきらと光って見える。
    ああ、そうだ。
    この二人のとても美しい花を咲かせるのが上手だった。
    などと、ぼんやり考えている俺の鼓膜を智成の声が揺らす。

    「お前の不安はごもっともだよ。
    死を目前にする奴にどんな言葉を掛けたら、、なんて考え始めたら泥沼だ。
    だから、いつものお前でいい。
    相手が求めてくれたなら、なおさら、いつものお前で接してやれ。
    少なくともあいつは、お前のそーゆー馬鹿まじめで優しいところが好きなんだろうからよ。」

    そういって、智成は俺の手を放す。
    そこは、まっちゃんが休んでいるはずの休憩室の前だった。
    中から小さく店長とまっちゃんの声がする。

    起きたのだ。

    俺の足は勝手に動いていた。

    「まっちゃん!!」

    勢いよくドアを開けて、ベットに座っているまっちゃんに飛びつく。
    まっちゃんは突然のことに驚きながらも、休職中に痩せてしまった体でちゃんと受け止めてくれた。
    ぎゅーっと、力の入らない様子のまっちゃんのことなど気にも留めずその身を抱き留める。

    「ごめん!!俺、もうなんか、いろいろ考えたらそれしか出てこなくて、でも、もうなんていうか、
    とにかく、起きてよかった!!」

    まとまりなんてかなぐり捨ててしまった文体が、そのまま事の葉として飛び出す。

    聞きたくない言葉かもしれない。
    触れてほしくないかもしれない。
    それでも、そんなことを考えて何もできなくなるよりは幾分かましだった。

    「よかった。よかったよ。」

    俺が先に泣き出してしまって、それでも、俺の涙とは別に肩口が濡れたことにも気づいて、年甲斐もなく、二人して泣いているんだと理解した。

    笑顔でなくていいから、
    枯れてしまってもいいから、
    そのまま朽ち果ててしまうのだけはどうか。
    そう願うことくらいは君に届いてほしい。

    どうかこの願いが、その根に届いてほしい。

    (そう願われていることが、言の葉と大量の涙で直接流れ込んできて、傷口に染みていく。
    でも痛くはなかった。

    久しぶりに感じる日と熱は温かく心地よかった。)
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