腐男子鈴木風鈴のフィルターは厚い突然だが、俺は腐男子だ。
さて、なんで俺がこんなことをカミングアウトしてるかというと、それは現状をお伝えしてから説明した方がわかりやすいだろう。
「まっちゃん、ほら、口もとまた緩くなってるよ?」
「‥‥んあ?あー、おう。」
「溢れて服濡れちゃってるじゃん。ほら拭いて!拭ける?拭こうか?」
「拭ける。」
ここは警察署内の食堂。
斜め前の席で同じ地域課の先輩の松川智治さんと黒川衽さん、後輩の賤川伊吹姫くんが食事を取っている。
3人で丸いテーブルを囲んでいるが、諸々事情があり、俺はとても困っている。
さっきの会話でもわかるだろうが、黒川衽警部補は警部補であり、ハコ長の身。やや周囲への心配りが過剰だ。
特にこの松川智治巡査長に対しては、度々その距離感に異常さを感じる。
勘違いを避けるために言うが、松川さんは、普段こんなに抜けていない。
今、呆然としてて行動がふわふわしてるのは、全てここ最近の業務と本人の不眠症が重なって充分に睡眠が取れていないからだ。
こうなる事は、俺が就職してから数回あったが、すごいものでそれ以上に調子を崩す事はないし休むこともない。
そんな松川さんを俺ももちろん心配しているが、その心配が異常なのが衽さんだ。
あー、つまり何が言いたいかというと、
この二人はとにかく距離が近いのだ。
位は違うが、同期の警察学校卒であり、それ以降同じ配属でなくても連絡を取り合っていて、
その仲の良さが明確にわかるエピソードは数多く、一番わかりやすいものを挙げるなら、智治さんの結婚式の友人代表挨拶は衽さんだったらしい。
さて、本題に戻ろう。
俺が何に困っているのかという点についてだ。
さっきから、寝不足の智治さんを介抱しながら衽さんと賤川が食事を摂っているのを見ているわけだが、
眼福すぎてつらい。
という点について困っている。
前にも説明したが、俺は腐男子だ。
目の前の光景は所謂ご褒美なのだ。
同期なのに、社交的でちょっとしたおちゃらけすら見せる陽キャ系美形と、力強く人を疑うことを知らない天然系男前。
そして、その状況に冷徹なほどに距離を置きながらも視線は心配の色を隠せないツンデレ系イケメン後輩。
それは俺の屈強な腐男子フィルターでも圧が強い。
薄い本が厚くなるとは、まさにこの事。
ちなみに、俺はゲイじゃない。
男同士の絡みを見るとテンションが上がってしまうだけだ。
おっと、衽さんが智治さんの口元を拭い出した。
いよいよ見ていられなくなったのか、優しさか、賤川が口を開いたのが聞こえた。
「智治さん、午後の業務は俺もできるやつなんで、ちょっと仮眠とってきてください。
すいません、ちょっと用事があるので先に。」
「わるぃ、伊吹姫、ありがとうな。」
「姫ちゃんも休憩はしっかりとってね!」
「はい。失礼します。」
こうやって、完璧な回避術で二人きりの時間を作り、かつ、先輩の仕事をこなす後輩はポイントが高い。
そして、これなら松川さんも思い切り甘えられる(?)だろう。
あとは妄想で補填しようと、俺は今日も目の前で起きた出来事をスマホのメモ機能にメモする。
腐男子仲間は少ないが、SNSが発達した今“同類”を見つけるのは容易い。
腐った仲間に性別など関係なく、
この俺の眼前で起きた出来事を話せば、それが絵師や執筆家によって作品に組み込まれていく。
これが俺の小さな楽しみだ。