「テメノス、クリック。お前達に頼みたいことがあるのだが……」
「どうして分かってくれないんですか!」
「分かるわけないでしょう!」
「……うわ」
所用でフレイムチャーチへとやって来たオルトがテメノスの家のドアを開けたと同時に、二人の怒鳴り声が飛んできた。
リビングでは珍しく睨み合っているクリックとテメノスの姿。
即座に面倒くさい気配を察知したオルトは、巻き込まれてたまるかとばかりにソッとドアを閉じようとした……が。
「オルト、いいところに来てくれた。ちょっと僕達の話を聞いてくれ」
「逃がしませんよ?」
ガシッと左右の肩を引っ掴まれた。
「…………」
この時、脳内に『しかしまわりこまれてしまった』という謎のメッセージが過ぎった…と後にオルトは語る。
「……で?二人で言い争ってた原因はなんだ?」
「今回ばかりは僕は悪くないと思うんだ」
「私だって悪くありません」
「どっちが悪いかは、お前達の話を聞いてから決めることだ。いいから原因を話せと言ってるだろう」
「だって……テメノスさん、僕と喧嘩したいって言うんだぞ!!」
「…………」
「ちょっとオルト君。『頭大丈夫かコイツ』みたいな顔で私を見るのやめてくださいよ」
「いや……むしろそういう顔にならない方がおかしいだろ」
「いえホラ、よく喧嘩してぶつかり合ってそうしてますますお互いを思い合う気持ちが強くなるって言うじゃありませんか。でも私とクリック君は今まで一度も喧嘩らしい喧嘩をしたことが無いんです。なので、これじゃいけないと思ってクリック君に『君と喧嘩しなきゃなので何か私を怒らせるようなことを言ってください』って言ったんです」
「…………」
「なのにクリック君はちっとも私の思いを分かってくれないんです」
「だからどうしてわざわざ波風立てないといけないんですか!僕は絶対に喧嘩なんてしませんからね!」
「もういいです!クリック君の馬鹿!それから、えーと…イケメン!」
「なっ…!馬鹿って言う方が馬鹿なんですよ!テメノスさんだって綺麗なお顔してるくせに!」
「「オルト(君)はどう思(いますか)う!?」」
「知るか」
知るか。
大事なことなので二回言ってやった。
「……というか今まさに喧嘩してるだろ、お前達」
「「あ」」