ヒュー…ヒュー…と熱い息が漏れる。
身体は燃えるように熱いのに途切れることの無い寒気が全身を苛み、安静にしているはずなのに頭の中…いや、脳がグルングルンと回っているような感覚に陥る。
(こんな酷い風邪ひいたのは何年ぶりだろう……)
子供の頃は熱が出ても使用人達やかかりつけの医師がいたから、どうにかなった。父上や母上は顔も見せに来なかったけど。
家が没落してからは、誰も傍にいない中、熱が下がるまで一人でジッと耐えていなかったか。
(……オルトやテメノスさんと出会って気が緩んだのかな)
そこまで考えて、ブンブンと頭を振る。……痛い。
(イタタタタ……、じゃなくて。ただ自分の弱さが招いたことじゃないか。なに二人のせいにしてるんだ)
頭から布団をかぶり、身体を胎児のように丸める。
大丈夫。大丈夫。今までだってずっとこうしてきたんだから。
少し眠って目を醒ましたら、ちゃんと治っていつもの自分に戻ってるから。
ようやく重くなり始めた瞼に逆らわず、そのまま眠りに落ちた。
+++
夢を見た。
家が無くなって。
母上もいなくなって。
父上は朝から酒を呑みに行って。
薬はもちろん満足に食べる物も無くて、部屋の隅で薄いシーツに包まって、寒さと吐き気に耐えながら父上が帰ってくるまで待っているしかなかった頃の夢を。
ガチャガチャとドアノブが回される音が響く。
父上だ……!
ゆっくりと顔を上げると……。
「ん……」
ショリショリという音と、誰かの気配にフッと目が醒めた。
「おや、目が醒めましたか?」
「え……?テ、メ……さ?」
まだボンヤリとした視界にリンゴを剥いているテメノスさんの姿が映った。
「あぁ、無理に起きようとしないで。ちょっとおでこ触りますよ。……うーん、まだ熱が下がってないですね」
「あの……?」
「とりあえずその汗びっしょりのパジャマ着替えましょうか。その後はちゃんと水分取ってくださいね。あ、お粥食べられますか?」
「いえ……、今はまだ……」
「そうですか……。では、お腹が空いたら言ってください」
そう言いながら、テメノスさんは僕が着ているパジャマのボタンを外し始める。
「あの……テメノスさん」
「なんでしょう?」
「なんで……ここにいるんですか?教会のお仕事は……?」
「あ、フケました」
「……は!?」
仮にも聖職者の発言だろうか。
「冗談ですよ。ちゃんと代理の方に任せました」
コロコロと笑うテメノスさん。この人の場合、冗談に聞こえないんだよなぁ。
「だって、大切な人が不調の時は傍についていてあげたいじゃないですか」
「…………」
テメノスさんの言葉がジワジワと行き届いて……、全身がボッと真っ赤に染まった。
「おやおや、また熱が上がったようですね。とりあえず今はまだ寝てなさい。……クリック君が眠るまで私が傍にいますから」
「………はい」
新しいパジャマを着て、再びベッドに横たわる。
キュッと繋がれたテメノスさんの手の温もりを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。
次に見た夢は、子供の頃の僕がテメノスさんの手を握りながら、安心したように眠っている夢だった。