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    youraku0510

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    youraku0510

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    ふせったで呟いた トロップホップの舞台に出演するテメのお話。なのにテメがクリ君に「見に来るな」という理由は……。

    満天の星空。
    月明かりに照らされた海。
    色とりどりの花や貝殻で飾られた、いつもと趣が違う水上の舞台。
    周りには他の地域から来たであろう大勢の観客。
    楽しそうな周りの観客達とは反対に、僕はこの海沿いの町に来た時からずっと機嫌が悪かった。
    (テメノスさん……、なんであんなこと言ったんだろう……)

    + + +

    以前、テメノスさんはこのトロップホップで舞台監督の目に留まり、彼が脚本を書いた演劇で探偵の役を演じたことがあるらしい。それがまた見事にハマリ役で観客からも大好評だったらしく、以来、監督から頼まれて何度かその劇に出演しているそうだ。
    ……もっともテメノスさんの美貌と色気なら、たとえ通行人Aとかの役でも観客の目を引くだろう。
    話を聞いて以来、僕も毎回観劇に行って終幕後はテメノスさんと二人で打ち上げしたり、海辺を散歩したり、海岸で花火を見たりと、最も楽しみなイベントの一つだったのだが。


    「あの、クリック君。今回の舞台は……、見に来ないでください」
    「は?」

    突然テメノスさんから呼び出され、何事かと思ったらこの『見に来るな』宣告である。
    理由を訊いても「ちょっと、言えないです……」の一点張りだ。
    テメノスさんも、僕がそんなことで納得するハズもないことをわかっているんだろう。
    話は終わった、とばかりに足早に去っていってしまった。
    ……呆然としている僕を残して。


    + + +

    そして、舞台当日。
    来るな、と言われて素直にハイわかりましたと引き下がるわけもなく、僕は観光客に混ざってコッソリとトロップホップへとやってきた。
    ……それにしても、どうして突然、舞台を見に来るな、なんて言い出したんだろう。
    やっぱり頼んでもいないのに、舞台の度に僕が見に来るのが嫌だったんだろうか。
    それとも、誰か好きな人ができて、これからはその人と一緒に過ごしたい……とか?
    あぁ、嫌な考えばかりが頭を過ぎる。


    その時、一際大きな歓声で思考が中断される。
    気がつくと、四方から聞こえてくる笛の音や太鼓の音。そしていつの間にか集まってきた夜光虫。

    ゆったりとしたリズムの演奏が響き渡り、スポットライトが舞台を照らす。

    歌い手であろう女性の澄んだ歌声が聞こえ、舞台から島の伝統衣装だろうか、ベラ(ベリーダンス用の衣装)の装束に身を包んだ踊り子が現れた。
    両手をかざし、まるで神に自らを捧げるように舞うその踊り子は──。

    (テメノスさんんん!!??)

    顔にメイクを施しフェイスベールをつけているが、僕がテメノスさんを見間違うハズがない。
    間違いなくテメノスさんだ。
    (な、なんであの人があんなカッコして踊り子なんかに!?)
    パニック状態の僕を余所に、テメノスさんは演奏に合わせ、ゆるりと舞う。

    月の光と、夜光虫の仄かな光に包まれて舞うテメノスさんの姿は本当に月の精のようで。
    気がつくと、周りで騒いでいた観客達は目の前の光景に完全に見蕩れ、まるで言葉を忘れたかのように、ただ佇んでいた。

    やがて演奏が止み、舞を終えた踊り子ことテメノスさんが観客達に一礼する。
    一拍間おいて、盛大な拍手と歓声が村……いや、島中に響き渡った。

    鳴り止まない歓声の中、舞台袖に下がろうとししているテメノスさん。
    その時、僕とバッチリ目が合って。
    彼は人差し指を唇に当て、イタズラっぽくウィンクした。


    「お、おい!今あの人、こっちの方見て笑ったよな!?な!?しかもウィンク付きで!!」
    「バカ!あのおねーさんは俺の方見たんだよ!!」
    「どうする!?あとで声かけてみるか!?もしかしたらワンチャン仲良くなれイダアァァァッ!!!」
    「おい!どうしたぁ!?」
    「い、今誰かが俺の向こう脛蹴りやがった!!」

    残念だったな。お前達にはそのワンチャンも無い。僕が片っ端からそのチャンス潰してやるからな。

    でも、今は。
    まずテメノスさんに事情を聞くのが先だな。
    僕は周りの奴らにぶつかるのも構わず、人の波を押しのけ、テメノスさんの元へ向かった。


    END

    おまけ

    (着替えてる途中で、クリック君に見つかりました)

    「なんで最初に僕に言わなかったんですか!」
    「だ、だって恥ずかしいでしょう!あんな格好でクリック君の前で踊ったりするなんて……」
    「……で?どういった経緯であんな女性ものの衣装着て踊ることになったんですか?」
    「か、監督さんから出演料はずむって言われましてね…?旅の路銀もね?そろそろ危うくなってきたので……ね?」
    「…………」
    「……やっぱり怒ってますか?」
    「……少し。まぁ、来てよかったですよ。気づかずにライバル増やすところだったし……」


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