「あ、あの……、聖堂機関の副機関長様ですよね?これ…クッキー作ってきたんですけど……」
「このマフラー、私が編んだんです!」
「この手紙に私の気持ちを綴ってきました……!」
「「「是非クリックさんに渡してください!」」」
「…………承知した」
俺の朝は、町の女子達に囲まれるところから始まる。クリックに渡してくれと、プレゼントやら手紙をドカドカ押しつけられて。
今日も今日とてメッセンジャーとしての一日が始まろうとしている。
+ + +
俺の同僚であり友人であるクリック・ウェルズリーは、ハッキリ言って見目はいい。
柔らかな金髪に、空の色をそのまま映したような青い瞳。
さらに、保身と権力しか頭にない腐敗しきった聖堂機関の連中の中で数少ない清く正しい心を持った本物の騎士だ。
そして正義感にも溢れ、困ってる人間を見れば誰彼構わず手を差し伸べようとする。
そんな男を傍から見たら、ましてや魔物や獣から守ってくれたり助けてもらったりしたら、恋に落ちてもおかしくないだろう。それはまぁわかる。
想いを伝えたくて自分の気持ちを綴った手紙やプレゼントを渡したいのもわかる。
……そしてクリック本人に渡す勇気が無いからと俺に代行を頼むのも、まぁ……わからなくもないが、正直自分でやってほしい。
初めの頃は「こういうのは自分で渡さないと意味が無いだろう」と断っていたが、だんだんそれすらも面倒くさくなってきた。というよりも、いちいち断るより渡された物をそのままクリックの部屋に放り込んでおいた方が遥かに楽だと気づいた。
一度クリックから、「なんで受け取ってくるんだよ。正直困るんだけど」と言われたが、実際困ってるのは俺の方だ。
なんでクリックの馬鹿のために俺がこんな苦労をしなきゃならんのか。
女子達から渡された物を鞄に入れて、ハァ~~…とため息をつきながら本部へ向かおうとすると、一人の幼い少女がこちらをジッと見つめていた。
よく見ると、その手には一通の手紙が握られていて。
「君もその手紙クリックに渡してほしいのか?」
「あ、えっと……」
少女は恥ずかしそうに俯いていたが、やがて顔を上げて、
「こ、このてがみ……、くろかみのお兄さんに、です!」
「は!?」
驚いてるうちに少女は手紙を俺の手に押しつけ、そのまま走り去ってしまった。
+ + +
副機関長室に戻り、渡された手紙を慎重に開封する。これで人違いだったりイタズラだったりしたら地味にショックだな…と恐る恐る手紙に目を向けると、そこには子供らしい拙い文字でこう書いてあった。
『あのときまものからたすけてくれてありがとう。おおきくなったらおにいさんのおよめさんにしてください』
そして同封されていた押し花で作った栞と飴玉。
「……………」
+ + +
「あれ?オルト、これ飴か?」
休憩中に副機関長室にズカズカ入ってきたクリックが、机の上の飴玉に目を向ける。
「お前、甘いもの苦手じゃなかったか?」
「うるさい。それに触るな」
「それはともかく、こんな暖かい部屋に置いといていいのか?飴溶けかけてるぞ」
「それを早く言え!!」
椅子の上に放り投げられた本の間から、押し花の栞がハラリと落ちた。