パジャマパーティのお時間です!楽しそうだ。お昼休み直後の歴史授業という最悪のコンボで眠気と格闘していた私の気分が持ち直すくらいには、バレットくんの肩を掴んだ友人がにんまりと悪い笑みを浮かべている。
「今晩、21時にアタシの部屋集合ね!」
「えっ。本気でオレに言ってる?」
「パジャマパーティーするぞー!」
「おー」
私も肩を抱かれ、気の抜けた拳を突き上げるも、バレットくんはあっけにとられている。
「いやちょっと待てえ!!」
ガタッと立ち上がるバレットくんに周囲から視線が集まる。気まずそうに腰を下ろしたバレットくんは小声で怒鳴ると言う器用なことをしていた。
「あのな!女子寮にオレが夜入れるわけねえだろ!」
「来てくれる前提なの愛してる」
抱きつきかけた友人の手がすんでのところで止まり、彷徨った。あれをやると青髪のイケメンが凄まじい形相ですっ飛んでくるのだ。めんどくさいことになる。
朱色のツンツン髪にチンピラのようなら挙動をするけど女子には今一つ耐性なくて下手(したで)になるこの健全な男子、ドット・バレットくんには、誰が予想できよう、バレットくんをそれはもう愛して愛してやまないハイスペックスーパー彼氏様、ランス・クラウンという男がいる。傾国の顔面といっても差し支えない整った目元に輪郭、成績優秀で何一つそつなくこなす全女子の憧れの存在だが、その実はツンデレクソ重鬼畜ドS彼氏でもあるので、油断ならない。バレットくんの友人の身としては、彼を独り占めしようとするヤツの存在が面白くはない。しかし、そんな彼らはクラスでは顔を合わせば喧嘩ばかりしているくせに、その実なんとも人目のつかないところでイチャつく立派なバカップルなのだ。もっと面白くない。
バレットくんは友人の肩を掴んでぶんぶんと揺らしているがるが、ものすごく控えめだ。私はバレットくんのローブの裾を軽く引っ張った。
「だいじょーぶ、部屋のすぐ裏の木登ってくれば一発だし。というか今日は堂々と正面からこよ!ドットきゅん」
「はぁ!?」
夕方、バレットくんの部屋まで押しかけいつぞやのメイド服のように制服を剥ぎ取ってしまうと、二人で耳付きのピンクのもこもこパジャマを被せた。
「ウサ耳パーカーかわいい〜!」
「どうも…………」
口を尖らせてるし、ツンツン頭を無理やり潰したせいで髪はくしゃっと乱れてしまったがそこも愛らしい。撮った写真は後でクラウンに売ろう。
「じゃ、お風呂入ってきて。外で二人で待ってるからさ、ドットきゅんお風呂上がったら来てね!」
「は………!?ま、まて、こんな格好で風呂まで行ってこいっていうのか!?」
「ちがうちがう。お風呂上がったらそれ着てきてね。待ってるから」
「同じじゃん……結局これで出歩けと……?」
バレットくんは自分で耳を指先でつついてげんなりとしている。そういいつつも触りたくなるそのもふもふ感、たまらないだろう、そうだろう。もふもふは史上の癒しだ。
男子寮でふわもこパーカー着て歩いてるやつがいたらドン引きするけど、目的はいかに自然に女子寮に入るかなのでOKだ。その間にバレットくんの尊厳は失われるかもしれないけど。
「これでパジャマパーティーにも完璧でしょ!」
「……… マジでぇ………?」
「ノリ悪いぞー。こないとランぽよにあることないことチクるから」
「ないことをチクるな。待て、何いう気だ」
「え?ドットきゅんが夜な夜な寂しいって言ってるとか……?」
「ドットきゅんが知らない女と浮気してるの見たとか」
「オレを殺す気か?」
バレットくんは目を剥いて振り向いたが私たちは肩をすくめた。
「まあおもしろそうだしいいんじゃね」
「私は勘弁かな〜触らぬクラウンに祟りなし」
「わかってんじゃん………」
大きなため息を一つ、それでも夜更かしは楽しみなのかバレットくんの口元は歪んでいた。
別れて男子寮から少し離れたところで二人でおしゃべりをしていれば時間なんてあっという間に経つ。途中で知り合いと出くわしたのか、ピンクのもこもこウサギが死んだ目をして出てきた。
「フィンに見られた…………」
「似合ってるよウサちゃん」
「エイムズくんとなんか話した?」
「ガン見してくるから睨んじまった」
フードを目深に被せながら三人で女子寮に向けて歩いていくと、入り口が近づくにつれバレットくんの視線はどんどん落ちていく。
「はぁ………酷い校則違反だぞ………」
「は?ドットきゅんそのなりで校則とか気にしてんの」
「なっ、どういう意味だよ」
「校則の二つや三つ破ったことありそうだけど」
「現に破ってるしょ。不純同性交友」
「……………」
「異性じゃないからいんじゃね」
「うわ差別だ」
二人で言い合ってる間も狼狽えて口をはくはくさせて固まったバレットくんの背中を押す。「純情な交際です!」とか反論しちゃえばいいのに。
押されてハッとしたのかバレットくんは慌てていった。
「そっ、それとこれとは別だろ………夜中に女子寮に行くなんて」
「甘いなドットきゅん。いい?規則なんてものは破るためにあんだよ」
「横暴だ……」
「別に誰に悪いことするわけじゃないし。ちょっとくらいハメ外さなくちゃね。限られた時間の学生生活なんだから!」
「オーターさんの耳になんか入ったらなんて言われるか………バレたら半殺しにされるんじゃ………」
「今更ビビってんの〜?男みせろ〜」
ぶるりと身を震わせたバレットくんを挟むように二人で腕にくっついた。
「いざとなったら砂の神杖(デザトケイン)に一緒に怒られてあげるから」
「オーター様もまさかドットきゅんが女子の覗きしに女子寮に忍び込んだとか思わないっしょ?」
「どうかなぁ……」
「師匠なんだっけ?カッコいいよね、砂の神杖(デザトケイン)」
「前に実物見たときはマジやばかった〜!ランぽよとはまたちがうインテリタイプのイケメンでー、とにかく溢れ出す大人の魅力ありすぎ!雑誌の表紙飾んねえかなっていつも思ってるんだけど」
聞いてなさげなバレットくんはぶつぶつと「思いっきり校則破ってるからケツ砂……退学……いやだ……」などといっているが、私たちはオーター・マドルトークで忙しい。
「あのキリッとした横顔が素敵だよね」
「クラスの男なんか目じゃないけど、アタシ、オーター様になら遊ばれてもいい!」
「う〜ん、いい過ぎと言いたいところだけどわかる」
そんなことを話してるうちに女子寮の入り口を通過している。バレットくんは緊張して目を上げることもできていなかったが、二人で三人分はおしゃべりをしていて部屋にはあっという間に着いた。
「じゃーん!ようこそ〜!!」
「あっ、おっ、お邪魔します。あの、これ」
「ん?なに」
「ハーブティーと、お茶菓子。といってもクッキーしかないけど……」
「へ。あ、お気遣いどうも………」
「お、おう」
友人が紙袋を受け取りながら目を丸くしていた。彼がずっと何か手に持っていたのが気になっていたが、手土産だったのか。急に誘ったのはこっちだったのに気を回すのがバレットくんらしい。
「ウケる。いまのぎこちないとこ撮っとけばよかった。クラウンに見せたら炎上する」
「「やめろ」」
女子寮といっても作りは男子寮とそう変わらない。一応、個室の数はこっちの方が多いらしい。私は勝手知ったる部屋なので、バレットくんを押しながらさっそく並んでソファに座る。
「二人で同室だったのか?」
「いんや?別の子だけど、今日その子と部屋入れ替わってもらったんだ〜」
「そ、そうか……その子にもよろしく言っておいてくれ。あ、ポットあるか?オレがお茶淹れるよ」
「ドットきゅんほんとなんでモテないの?」
「非モテのオレになんてこというの?」
バレットくんがとお茶の準備をしている間に、せっせと持ち寄ってきたお菓子を並べる。夜にこんなのカロリーオーバーだが、パーティーなんだから仕方ない。
くる前に集めておいたゲームも机の上にどさどさと積み上げておく。
「とりあえずカードでもするかー。ババ抜きでいいかな」
バレットくんの淹れるお茶はなんでも舌鼓を打つくらいおいしい。カップにいれてもらうと、今日もまたオシャレなお花の香りとマイルドな味わいが口の中に広がっていく。バレットくんもリラックスしたようで、カードを初めて少しした頃。頃合いを見て私は口を開いた。
「ねえねえドットきゅん」
「ん?」
「クラウンのクラウンってデカいの?」
すごい音がしたかと思うと、バレットくんはお茶の半分を噴き出していた。ソファから転げ落ちて咽せているのに、片手を震わせながらカップをちゃんと溢さないように持っていたのでそっと机に置いてあげた。
「やっぱ気になるよね〜。立派なの?あ、ヤベ」
友人にババが持ってかれた。彼女はカードを混ぜているがバレットくんはそれどころじゃないし見てないから要らなかったと思う。
「………その、だな。デリカシーって言葉知ってるか」
「じゃあランぽよとドットきゅんならどっちのがおっきい?」
「セクハラです!」
「ドットきゅんのがやっぱ小さいんだー」
「ちちち、ちげーし!!」
「ドットきゅん早くカード引いて」
「ちなみにアタシらはねー。この子なんとカップが」
「ーーー!聞こえない!!!聞こえない!!!!あーあーあー!!!!!」
バレットくんが叫んでいるうちにカードは回る。私と友人で手元のカードがちょうどなくなり、ハイタッチをする。
「はい、ドットきゅんの負けー」
「負けでいいから!!」
机に積み上げられていたボードゲームを指差した。
「ほら!!次オレこのゲームしたいなー!」
「ボドゲしてもいいけど恋バナききたいよね」
「こんなに良い話のネタがあるのに無理でしょ」
「なんでオレが呼ばれたか理解してしまった…………」
「なんだと思ってたん?」
バレットくんが選んだのはバランスツリーだ。一応引っ張り出してあげる。セットしてコマを配ってまわるが、空気はもうすっかりゲームの楽しい緊張感よりも甘くときめくような話を求めている。
「ABCのCまでいってるのは知ってるけどさ」
「ねぇもうやめねえ……?」
「まずはAの話ですねえ」
サイコロを振ってひとつ目のコマを置く。ツリーがぐらりと揺れるがまだまだ余裕だ。
「で?最初に手繋いだのはいつ?」
「………覚えてないデス」
続いてバレットくんもそっとコマを置くが、ズレていきなり落としそうになっている。すぐに負けそうだ。
「ふふーんその顔は覚えてるな?」
「初デートのとき?それとも学校で?」
「………っ」
「ほらほら〜、早く答えないと!クラウンとバレットはデキてるって噂流すのなんか一瞬なんだから」
「いいから吐いちゃいなさいよ」
「ううう………」
少し傾きが大きくなる場所にあえてコマを置くと、隣で舌打ちが聞こえたが知らない。そのまましくしくと半泣きのバレットくんの口に、甘いプチシュークリームを放り込む。バレットくんは「おいしい……」とこぼしながら飴と鞭の合間で悶えていた。
「つってもわかんねえよ……………指が掠めたっつーか、小指がちょっと絡まったっつーか……………そういうことは多かったし…………」
「そんなに頻繁に手絡ませあってちちくりあってたの」
「いい方!引っ張られてるだけみたいなときもあったし!!」
「そういうのじゃなくてさ!いつなの!」
「いつっていわれても……」
バンッと机に両手をついて友人が衝撃でツリーを全部ひっくり返した。熱のこもった尋問官だなおい。というかどさくさに紛れて負けそうなゲーム流したな。
「ちょっと!アンタにとってクラウンと手繋いだ思い出ってそんなもんなの!?手と手が触れて心臓バクバクしたことくらいあるでしょ!」
「深夜に二人で部屋抜け出してニケツして箒に乗ったときです!!!!!」
部屋に大きな歓声が上がった。
「はいきたぁぁーーー!」
「それそれ!そういうの!!」
隣の部屋からごんっと壁を叩かれてしまい、いそいそと防音魔法を貼る羽目になったが見事にエピソードをひとつゲロったバレットくんは両手でウサ耳を引っ張りパーカーを目深に被ってソファの上で体育座りをしている。なんだこのかわいい生き物。
バランスツリーのコマが散らばっているが誰ももうゲームどころじゃない。
「で〜?なんでそんなことになったの?ほらほら、もっと教えなさいよ」
「あ、あの日は寝れなくて……そしたらアイツも起きてて、そんで、散歩行こって、」
「クラウンが誘ったの?」
「……オレが」
フゥー!と大きな拍手と歓声で囃し立てるとバレットくんは涙目になった。照れていてかわいい。
「じゃあBよ、B!」
「初チューはいつ?どこで?どんなとき?どんなふうに?」
「それ、は……アイツに告られて……そのときに………」
「雑!もっと説明してよ!」
「これ以上何を話せって!」
「まずさ、そのときどうやって告られたの?」
ふたりでニコニコしながら待っていると、隠れていた顔がフードの隙間からちらりと少しずつ見えてくる。
「………なんでもない日だったんだけど、アイツがなかなか帰れない日がちょっと続いてたとき、夜、一緒にお茶飲みたくてーーー」
ひと目でわかる。横から見るバレットくんの表情はその瞬間を思い描いているためかとてもやさしい。
「帰りも遅いの知ってたから授業の予習しながら待ってたんだ」
「妻か?え?結婚してた?」
「シッ!」
「時間も結構遅かったかな。もう日付も変わってて、オレも寝そうになってたんだけど、その時ちょうど帰ってきて。やっぱりアイツ疲れた顔してて。寝不足なんだなってすぐわかっんだけど、そんで一緒にハーブティー飲んでさ、今日こんなことあったーとかどうでもいい話してたら……と、突然………あいつが………キス、してきて」
また黄色い悲鳴をあげてしまう。同時にぶわりとバレットくんの顔が赤くなって口元に手の甲をおきながら視線を逸らした。いや、それよりクラウンは告る前にキスしたのかアイツ。やっぱりいけすかない。
「ねぇねぇねぇ!なんて告白されたの?」
「その、フツーに…………好きだ、って………急に」
「で、なんて返したの?」
「『なんかの罰ゲームか?』って」
「なんてこというの」
「最悪」
ロマンティックが台無しだ。いまは頬を赤らめてるが、その時キョトンとした顔で言ってのけるバレットくんが想像できる。
「そ、そしたら舌入れてもっかいされて」
「サイッテーだなクラウン」
「うんでもそれはドットきゅんも悪いな」
「で?その告白それだけじゃないでしょ?」
「終わりだ。アイツはその日そのまんま寝落ちた」
「最低じゃん!」
「下半身直結野郎が」
「つ、疲れてたんだよ………まあでも、次の日もいつも通りだったから、オレも気のせいか、ただ魔がさしたのかなって思ってたけど、その後も何回も言われて、そのうちに、その」
「ドットきゅんは流されたんか」
「ちょろすぎ」
「だ、だって愛されてんなっておもっちゃうだろ…」
「乙女か」
「え?ちょっと待って、ドットきゅんはいつその告白OKしたの?」
「何回目かな………返事、きかれて………おれも、って返した」
「甘酢っぺ〜!ねえねえファーストキスは何味だった〜?」
「飲んでたからカモミールじゃねえかな……覚えてねえよ」
そわそわと落ち着かないバレットくんにマカロンの形のクッションをあげると抱きしめて小さくなった。
「残るはCの話でしょ」
「誰がいうか!!」
「少しでもいいからベッドでのこと教えてよー。ランぽよって紳士的で優しいの?それとも激しいの?」
「あ、それ知りたい」
「ぅぅぅぅぅ…………」
「ほらほら〜早くしないとアンタとクラウンのツーショット写真を校内中にばら撒いて」
「やめろやめろやめろ!」
冷たいぶどうジュースを差し出すと一気に飲み干して、バレットくんは覚悟を決めた顔つきになった。真っ赤だけど。
「アイツは……その、なんだ………最初は、やさしーんだけど……」
「つまり激しいってことね!?」
遠回しに言えてない。バレットくんは首まで赤くしてまたウサ耳フードを深く被った。
「好きな対位は?」
「正面?バック?」
「……………前、から………」
「へぇ〜?なんで?」
「顔………見れるし………だきしめられるのが…………」
「え?なにそれ」
「ドットきゅんはぎゅってされるの好きなの?」
「かーわーいーいー!甘えたなんだー」
「ちっ、ちげぇよ」
「でもクラウンにぎゅってされるの好きなんでしょ?」
「……………………うん」
マカロン型のクッションをぎゅうと抱きしめ真っ赤になりながらポツポツと話すバレットくんは恋する乙女と変わらない。最高に可愛い。クラウンの前でもこういう姿を見せているのかと思うと悔しくなってくる。隣に座ると続きを催促した。
「どういうとき好きなの?」
「アイツに手握られるだけでドキドキするんだ。キスされるとすごく幸せな気持ちになるし、愛されてるなって思うんだけど……でも!この間もヤダって言っても止まってくれなくて……」
「うわ絶倫なんか」
「そうなんだよ!!!信じられっか?あんなスカしたツラしてて化け物みたいに止まんねえんだよ!」
「いつもみたく怒ったり蹴ったりしてないの?」
「だ、だって………キス、されたら腰、立たなくなる…………」
「弱っ」
「仕方ないだろ!すんげー上手いんだ、か…ら…………あいつ、ゼッテー経験豊富なんだ………」
「それ本人に聞けばいいじゃん」
「聞けるわけねえだろお………アイツには幼なじみのかわいい女の子とかがゼッテーいるんだ………『ランスくん結婚しようね』とか将来の約束をしてるのにアイツはいまはそれを忘れてるだけでそのうち超絶美人の可愛い女の子が現れるんだ…………」
「妄想乙」
「ドットきゅんも大概だった」
「だいぶやられてんな。どーするよ」
メソメソとし始めたバレットくんの頭を撫でていると窓に影がさした。人がそう簡単に上がってこれるような場所じゃないが、何がきたかなんて答えは決まっている。
触れてもいない窓の鍵が外れて夜空から明るい水色の髪がのぞいていた。
「帰りが遅い」
「きゃー女子寮に侵入者だー」
「へんたいにおそわれるー」
「貴様ら………」
棒読みのセリフに、呆れ睨みつけてくる視線にはもう慣れてしまった。クラウンははぁ、と大きなため息をひとつつくと前髪を掻き上げた。
「そいつを迎えにきただけだ」
バレットくんはクッションに顔を埋めて聞こえないふりをしている。あんな話をしていたのだ、恥ずかしくて顔も見れないんだろう。耳が赤いのをみたクラウンが首を傾げる。
「酒でも飲んだのか」
「それいいね。次は用意しよう」
「冗談に決まってるだろ」
親指を立てるとクラウンは片眉を吊り上げた。イライラしてるのか蹲っているバレットくんのことを足で蹴って帰宅を催促してる。足ぐせ悪いなこいつ。サイテーだ。
「ねえねえランぽよ、ドットきゅん以外とチューとかセックスもしたことある?」
「は?あるわけないだろ。そんなバカな疑問を呈したのはコイツか?」
「や、やめ」
「そうでーす」
「ちょ………っ!」
私を止めようと腰を上げたバレットくんの手は宙で止まり、そのまま彼を見つめたランス・クラウンと視線がぶつかった瞬間固まった。
「どうやらオレの愛情表現が不足していたらしいな。叩き直してくる」
「ヒッ」
美人が怒ると怖いとはまさにこのことだ。あの無骨なクラウンが絶対零度の笑みを浮かべている。かわいそうにバレットくんはぷるぷると小動物のように震えている。
友人がクラウンの肩に手を置いた。
「あ、ドットきゅんはクラウンの顔みてヤるのが好きだし、チューは腰立たなくなるからやめてほしいくらい気持ちいいらしいです」
「ふうん?」
魔王のような笑みがなりをひそめ、口元がすっと戻ると明らかに機嫌が良さそうになった。クラウンがバレットくんの顔を覗き込む。バレットくんはさっきから石のようにピシリと固まってしまい瞬き一つしていない。
「良いことを聞いた。お前ら、なんでも奢ってやる」
「「やったー!」」
「ランぽよ駅弁ってわかる?」
「駅弁………?」
「ハメたまま抱っこすんの」
少し考えてからクラウンはバレットくんの腰に手を回し、片腕で抱き上げた。見かけによらず意外とちゃんと筋肉ついてるんだな。
「…………まあ、抱き上げれないこともないか。やってみよう」
「高級マカロン20個で良いよ」
「他にも考えておけ」
窓から飛び降りようとしているクラウンに抱えられてるバレットくんは、いまさら茹蛸のようにぶわっと真っ赤になり涙目で叫んだ。
「お前ら!!!オレをなんだと思ってんだ!!!」
もっと話を聞きたかったかもしれない。帰すのがちょっとだけ惜しくなってきたけど、だれも馬に蹴られたくはない。引き止められるわけもなく、彼の断末魔に大きく手を振って見送る。
「お幸せに〜!」
「ドットきゅん愛してるよ〜!クラウンには負けるけど!」