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    sei

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    sei

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    完全ギャグです。カップリング要素は一切ありません。
    ジョン皇帝と愉快な仲間たちのアホみたいなやり取りを延々垂れ流してるだけです。
    オチ含めて前々から書きたかった話だったので私は書いてて楽しかったです(読み手の気持ちガン無視なの草)

    カンバーランド、肖像画無さすぎる問題 王位継承問題にて揺れるカンバーランド。
     ハロルド王に言われるがままに、ゲオルグの治めるネラック城、ソフィアの治めるフォーファー城を訪問し、彼らに謁見。
     そしてダグラス城へと戻りハロルド王へ彼らと会ったことを報告する途中、何故かやたらと城の壁を眺めながら普段よりも幾分遅いスピードで歩くという謎の行動を取る、帝国軽装歩兵兼皇帝のジョンを、彼の少し後ろを歩くシティシーフのクロウは訝しげな目で見ていた。
    「陛下、何してるんですか?」
    「……気になることがあるのだ」
    「はい?」
     クロウの問い掛けに対して、深刻な面持ちで応えるジョン。
     自分が想像していたよりも幾分と悲痛そうな表情をする若き皇帝陛下に、思わず襟を正す。
     やはり、まだ王位継承者を誰にするかを決めかねているのだろうか。
     武勇に優れる長兄のゲオルグ。
     理知的で聡明な長女のソフィア。
     まだ幼く頼りなさはあるが、歳の割にはしっかりとしていて、国民にも人気のある末っ子のトーマ。
     ジョンと共に彼らに謁見をしたクロウから見ても、三人ともそれぞれの良さがあり、なおかつ皇帝陛下に対しても友好的であったので、これは確かに悩んでしまっても仕方がないだろうなと思った。
     誰が王位を継承しても、きっと帝国とは親密な関係を築けるだろう。
     それ故に陛下は苦悩しているのだろう。
     その時はクロウも、そしてジョンを警護し共に戦う、フリーファイターのオライオンも、宮廷魔術師のアメジストも、フリーメイジのアルゴルも、この場にいる全員がそう考えていた。
     しかし、ジョンの返答は彼らの想像の斜め上を行っていた。

    「何故、カンバーランドにはトーマ王子達の肖像画が一つもないのだろうか?」

    「…………なんて?」
    「何故、カンバーランドにはトーマ王子達の肖像画が一つもないのだろうか?」
    「いやあの、そうだけどそうじゃないんすよ陛下。俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて」
     あまりにも斜め上過ぎるジョンの発言に、クロウはつい敬語を忘れ、シーフギルドのメンバーに対するような砕けた口調となってしまう。
     そんなクロウの皇帝陛下への不躾な態度も全く気にせずに、律儀かつ真顔で一言一句同じ言葉を繰り返すジョンの言動には、帝国軽装歩兵特有の生来の生真面目さがよく現れていた。
     ただ、今はその生真面目さが仇となり、周りを困惑と混乱に陥らせているのだが、彼はもちろんそんな事など知る由もない。
    「我が国アバロンにはあんなにジェラール陛下の肖像画が飾られているというのに、どうしてカンバーランドには一つも肖像画が存在しないのだ? 我が国にはジェラール陛下の肖像画が九枚も飾られているというのに」
    「枚数数えたんですか!?」
    「皇帝として当然の責務だろう?」
    「えぇ……」
     何かおかしいか?とでも言わんばかりに得意げに即答するジョンにクロウはたじろぎ、そもそもそんな責務ねえよと心の中で突っ込んだ後、「あぁ……そういえばこの人、皇帝になる前から帝国愛が強すぎるところがあったな……」ということを思い出していた。

     ジョン、もとい帝国軽装歩兵の男性は、他の帝国兵の誰よりも帝国への忠誠心が強すぎるきらいがある。
     彼の先代であるジェイムズが先代皇帝のジェラールへと澱みなく発した「私にできることがあれば、何でもいたします。どのような些事でもお申し付けください」という発言から始まり、アバロンの城下町での「ジェラール様、私のこの剣技は、陛下を守る為に捧げます」発言。
     そして帝国に仇なす者に対してはドスの効いた声で「蛮族」呼ばわりをする等、彼の『帝国愛の強すぎる発言』を挙げていくと枚挙に暇がない。
     先代がこの有様なのだから、次代のジョンも帝国愛が少々強すぎる性格の、いわゆる『帝国強火担』と化すのは自明の理であろう。
     まあ、その強すぎる帝国への忠誠心を買われて皇帝へと抜擢されているので、決して悪いことではないのだが。
     ちなみに彼が伝承法にて皇帝継承を行った直後の言葉は、「アバロンの未来のために!」という、当然の如く帝国愛に満ち溢れたものであったということを付け加えておく。

    「私には歴々の皇帝の力と記憶はあるが、実際に彼等と共に過ごしていたわけではない。あれだけの数の肖像画が飾られるくらいなのだから、特にジェラール陛下は素晴らしい功績を残した偉大な方だったのだろう。私も帝国に仕える身として、一度はジェラール陛下、いやジェラール様と共に戦いたかった……っ!」
     先代が本当に羨ましい……!!と戦闘不能になった時のようにその場に蹲りながら本気で嘆くジョンの姿に、この人根っからの帝国軍人なんだな……。というかある意味皇帝に一番向いてないんじゃないかな……と、クロウは遠い目をしながら思うのであった。

    「……もしかして陛下、肖像画の数でカンバーランドの次の王位継承者を決めようとしてました?」
     今までずっと腕組みをしながら二人の漫才、もといやり取りを眺めていたものの頑なに一言も発していなかったオライオンが、ここにきて漸く口を開く。
     彼は別に無口というわけではない。面倒事が好きではないが故に『ツッコミ役』になりたくなかっただけなのだ。
     フリーファイター、言わば傭兵であるオライオンは、ビーバーやアバロンの国歌を歌いながら皇帝を飛び越え、最終的には壁へとめり込む名も無き男性をはじめ、個性豊かなメンバーだらけのシーフギルドのリーダーを務められる面倒見の良さが災いしてか、ついツッコミを入れてしまうクロウとは違い、ボケは基本的に放置するタイプだ。
     だが、今回はあまりにもクロウが不憫に思えたので助け舟を出したのだ。
     しかし、ツッコミ役がボケに関わると、巻き込まれてしまうのが世の常だ。オライオンはジョン皇帝という名のボケ役に口を出してしまったことをすぐに後悔することとなる。
    「ああ。現にアバロンでも皆の心には肖像画の数が圧倒的に多いジェラール陛下が、107年経った今でも特に印象に残っているだろう? だから、肖像画の数が人気の指標になると思ったんだが……。本当に不思議だ。どうしてカンバーランドには肖像画が一つも存在しないのだ?」
     心底納得がいかないという顔で、オライオン、お前はどう思う?と問われて、「知らねえよ、そんなの」とはとても言えずに曖昧に言葉を濁す。相手は曲がりなりにもアバロン国内最高の戦闘力を持つ皇帝陛下だからだ。
     先代のヘクターがレオンやヴィクトール、そしてジェラールへと生涯忠誠を誓っていたこともあり、フリーの傭兵でありながらその皇帝への強さへの畏怖と忠誠心は魂に刻み込まれている。まあオライオン本人は無自覚であるが。
    「アメジストとアルゴルはどう思う?」
     ジョンの奇行や全く生産性のないやり取りの様子を、少し離れた場所でまるで保護者のように、にこにこと微笑ましげに眺めていたアメジストとアルゴルの二人だったが、その彼に唐突に意見を求められる。
     だが二人共皇帝の突然の無茶振りにも全く動じず、片やアメジストは優美に微笑み、片やアルゴルは相変わらずの底の読めない飄々とした笑顔で迷いなく返す。
    「恐らくカンバーランドには、肖像画を描くことの出来る絵師がいなかったのではないかと思われますわ、陛下」
    「カンバーランドの絵師はきっと風景画専門なのでしょうねぇ。人には向き不向きというものがありますゆえ」
     その迷いと焦りのなさに、クロウとオライオンは心から感心していた。
     流石帝国直属の最古参兵の一人である宮廷魔術師と、合成術の開発にも携わるフリーメイジなだけはある。皇帝とやり取りをする時間がシティシーフとフリーファイターである二人よりも長いということもあり、皇帝の扱いには慣れているのだ。
     特にアメジストこと宮廷魔術師は、レオン帝の時から彼らに仕えている。
     皇帝が宮廷内や街中で突然掛け声を上げてジャンプをし出すなどの奇行を、仲間達の中では一番目にしている人物なのだ。この程度の奇言など意に介するはずもない。
     普段はインペリアルアタックの最後尾に配置され、守られる身である彼女からは、今やそれを感じさせないような『猛者』のオーラが放たれていた。……かのように二人からは見えていたという。
    「なるほど、そういうことか! ならばカンバーランドと協定を結んだ暁には、フォーファーの学校で肖像画を描ける絵師を育成出来るように、私が資金や人材を出来る限り援助しよう!」
    「流石陛下は太っ腹ですなぁ。ところで王位継承者は決まりましたかね?」
    「今の状態では私には決めかねるので、とりあえず「よく解らない」と答えておこうと思っている」
    「いや駄目だろそれ」
     そんな答え方したら下手したら滅亡するだろ……と思いながら、もはや条件反射的に完全に砕けた口調でジョンにツッコミを入れるクロウであった。

     この『カンバーランド、肖像画無さすぎる問題』から116年後、アバロンに大学を建てた次代皇帝兼武装商船団のマゼランが、入学試験中にその大学構内にて通算十枚目のジェラールの肖像画を発見し、「なんなんだこの国!? こんな所にいられるか! 俺は逃げるぞ!」と下水道から脱出しようとしたところ、「地下を通れば逃げられると思いましたか? 帝大の教授を甘く見てもらってはこまります。学生の考えることなどお見通しですよ。さあ、もどって学問に精を出してください」と、下水入口にていつの間にか待ち構えていた教授に言い放たれ、震え上がるのはまた別の話。
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