邂逅喧騒が、耳につく。
日常の中で世間話をする人々のざわめき。男、女。若者に、老人。
雑多に紡がれるそれらはぼやけた十座の意識をさらに薄く伸ばし、不思議とあたたかな空気の中に溶かそうとしていた。
——何か映画でも観ていたんだったか。
微睡みの中でそう考え、何をしていたのか思い出そうとするのにどうにも頭が働かない。まあいいかと上体を伏せたまま浮かばせていた意識を手放そうとした瞬間、その声は確かな質量を持って耳に飛び込んできた。
「起きろ、ヒョウドウジュウザ」
「…?」
それはどこかで聴いた音で十座の名を呼び、覚醒を促す。
声の主を自分は知っているはずなのに、誰だか思い当たらない。しかし呼ばれたなら返事をしなければ。反射的に顔を上げた十座は目の前の人物を認識すると同時に身体を大きく震わせた。
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