鼻に気をつけろ「小笠原の弓、お見事です!」
その溌剌とした声を瘴奸は貞宗の後ろで聞いていた。確か村上という名だったかと瘴奸は思い出す。瘴奸が会ったのはこの戦が初めてだったが、若いが明敏な男だった。
村上は自ら戦後処理を引き受けると申し出た。それも、市河と一緒にだ。村上の後ろにはその市河もいる。村上は貞宗に次の砦へ進むように進言した。
村上の進言は真っ当だった。より多くの領地を侵略するには三大将がいない手薄なうちに、貞宗自身が手早く動く必要があった。
しかし、瘴奸はこの村上という男が気に掛かった。
貞宗は村上の言葉に威勢よく答えて馬を走らせる。瘴奸はそれに続きながら、貞宗に馬を寄せた。
「大殿」
瘴奸は村上たちとの距離をはかりながら貞宗に声をかけた。
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